お勉強はもう苦痛ではないですか? -慢性期医療へのお誘い- (終回)

出ていくお金は高齢化に伴って毎年増え、入ってくるお金は少子化でどんどん少なくなっていく。税収はバブル期に約60兆円あったものが現在約45兆円、この経済不況で間もなく40兆円を下回るのではないかとみられています。老人国家に加速を続けている我が国では徐々に社会保障は縮小せざるを得なくなり、受給者も不満、納める若者も不満、皆が自分のことしか考えないようになるのでしょうか。社会保障制度の限界を迎える日も近いと思います。
しかし、皆さん、わが国がここでどこまで踏み止まれるかを世界の国々が注目しています。国家として一番多い支出である社会保障費、なかでも増え続ける医療費をどうコントロールするか。限りある医療財源をどう有効に配分するか、限りある医療資源をどう使って良質な医療・介護を提供するか、何を削りどこに集約投下するか、これを国家的視野で論じ、主張し、成果を挙げることが我々の使命ではないのでしょうか。それが医師という偏差値の高い頭脳集団に求められていることではないでしょうか。
慢性期の医療をもっとレベルの高いものにしようという趣旨で書いてきたこのコラムもあちこち寄り道をして12回目となりました。聖域と言われてきた医療界には多くの無駄と無理があります。医療の崩壊を人のせいにしないで、勤務医としての自分の人生を再度考えてみませんか。

お勉強はもう苦痛ではないですか? -慢性期医療へのお誘い- (その11)

下の図をご参照ください。
ある村に100人の住民がおり、うち5人が高齢者でした。この5人のために残る95人が一人一単位の額を拠出しました。すると高齢者は一人当たり95/5=19単位の可処分資本を頂けました。これが1950年頃の日本でした。2005年になりますと、高齢者は20人、生産者は80人です。拠出が一人一単位では足りそうもないので、3倍の3単位をお願いしました。それでも集まったのは240単位でそれを20人の高齢者で分けるとたったの12単位になりました。半世紀前に比べ税金(拠出額)は3倍になったのに、高齢者の自由になる資本は2/3になりました。さらに、25年経ちますと、高齢者は30人(高齢化率30%)、残りは70人で、一人5単位拠出しても高齢者の取り分はさらに目減りします。さらに25年後、これが日本の高齢化のピークですが、40人(高齢化率40%)、60人で一人7単位を集めても、またまた目減りしてしまいます。
2005年の時点に立って考えてみますと、この先半世紀で高齢者は倍になり、支え手は3/4に減る。高齢者のための拠出金は倍以上になるのに、可処分額は目減りしてしまう。そんな恐ろしい時代をわれわれは生きていかなければなりません。
 ましてや、経済不況と格差社会の中で、年収が上位の人の割合は変わらないのに、中の下から下位の人たちの年収が底抜け状態になって、雇用保険や生活保護の申請をする方が激増している現在、倍以上の拠出金をすべての生産者に求めることは不可能です。
 この超高齢化社会のなかで日本が皆保険制度をどう守るか、介護保険の設計をどうするか、世界の国々が注目しています。高齢化は先進国共通の悩みですが、その先頭を行く日本がお手本なのです。OECD諸国と比較して、対GDP比の医療費が低いから日本の医療崩壊が起こっているといった声が聞こえて参りますが、人口が500~1000万人と日本の1/20前後と少なく、高齢化率もまだ低い北欧諸国と比較して日本の低医療費を訴えて何かいい知恵が生まれてくるものでしょうか。

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お勉強はもう苦痛ではないですか? -慢性期医療へのお誘い- (その10)

印南氏が指摘されているように、田植えや稲刈り時の家庭内の介護力不足に基づく高齢者の長期入院、北国の越冬入院といった長いものから、退院日を大安の日に限定する六曜入院継続、病院の都合による空床回避入院継続、民間医療保険給付のための保険受給入院継続など、社会的入院は細かく言えば数限りなく見られます。問題はそれによってもたらされる廃用による身体機能の低下で、本人が望まない入院が本人の意向が無視されたまま継続されることです。社会的入院をなくせば一般病床で約17万床、療養病床で約15万床が不要になり、約一兆五千億円弱が適正化されると述べておられます。
私見ですが、高齢者に施行する手術など侵襲的医療は本来社会復帰を前提として行われるものですので、最終的に社会復帰が確認されたら追加して医療機関に収入があるような制度をとれないものかと考えます。前述のケースでは大腿骨頚部骨折の手術をして医療機関に対価としての診療報酬が支払われたあと、在宅復帰して一定期間に医療・介護費用が発生しなければ手術をした病院にボーナスが入るようにしてほしいと思うのです。そうなれば、病院は在宅復帰を最優先に早期にリハビリを行ってくれると思うからです。医師の目を担当の臓器から患者さんの全身管理へと向けさせるインセンティブが生じると思います。ボーナスは1000点(一万円)でも十分に効果が期待できると思いませんか。在院日数の短縮でその数十倍も医療費は節約できるはずですし、適正化される1.5兆円を引き合いに医療機関からボーナスの額を交渉する、健康を回復できた笑顔の対価を求める、そういう仕組み作りを医療関係者が提案し、現実化していくことが大切だと思います。