天災それとも人災?その6

3.震災対応 見えぬ司令塔(一部讀賣新聞から)
政府内に本部や会議が乱立し、首相はブレーンとして内閣官房参与を次々と任命し、さらにまた会議が招集される。指揮命令系統や役割分担がはっきりしないまま会議に悩殺される官僚たち、組織乱立への不満が充満していました。
普段は縦割りが問題となる省庁ですが、有事の際の複数省庁による「横割り」組織の乱立には責任の所在がわかりにくくなり、かえって非効率となるそうです。自民党政権時代は党の部会で政治家同士が議論し合い、その場で役人に指示があったので政治家の問題意識が顕在化して動きやすかったそうです。民主党の政治主導って何なのでしょうか。
 政治の責任の所在をさらに見えにくくしているのが首相のブレーンとなる内閣官房参与の存在でした。震災後首相は6人任命し、現在15名、あっ、いやいや、場当たり的な被爆線量の設定に抗議し、「参与の形で容認したと言われれば学者としての生命は終わりだ」とあふれる涙をこらえながら内閣官房参与を辞任された小佐古東大大学院教授を除くと14名の大所帯です。
 「あいつらは正確な情報を伝えてこない。あいつらは何か情報を隠している」。首相の言うあいつらとは、東電や保安院、原子力安全委員会のこと。参与に「あいつらとは違う視点のセカンドオピニオンを得る」と首相と参与の会談の場に官僚を同席させず、一部の参与は逆に東電の統合本部、日米両政府の連絡調整会議にも出席させる首相。「どういう権限で出席しているのか」と同席者に不信感を抱かせるこの異常な国家危機管理能力をどれほど多くの国民が認識しているのでしょうか。

天災それとも人災?その5

櫻井よし子さんが国際ロータリー2700地区大会の特別記念講演で指摘された首相の落ち度の1点目は、しびれを切らし陸上自衛隊のヘリにてほぼ単独の視察を強行したことでした。膨大な情報を処理し、解決策を立案するブレーンを伴わずに自分のみで単独行動を強行し、仲間に「お前たちは現場を見ていないだろ」はあり得ないことですよね。
 管総理は「原発問題は官邸主導でやれる」と確信し、自衛隊にヘリから放水の指示を出しましたが、放射線量が高く効果的放水とは言い難い結果に終わりました。地上からの放水も自衛隊、警察、消防の調整がなかなかつきません。これに対して矢のような首相からの催促が続きました。原子力災害特別措置法を適用すれば、首相からいろいろな指示が出せることを説明されても「何故進まないんだ」と菅さんは逆切れするばかりだったそうです。総理の指示は口頭で個別の官僚に命じただけ、これでは官僚組織は動きません。
 もともと民主党政権は政治主導、政治家とりわけ官邸が一切を取り仕切ることを目指して出発しました。官僚はその存在価値を評価されていない立場にありました。菅首相の官僚機構と東電への不信は強くなるばかりです。東工大教授で原子炉工学研究所長の有富正憲氏らを次々と内閣官房参与として官邸に迎え、その数は6人にもなりました。セカンドオピニオンを背後につけ管総理はますます高飛車になっていきます。東電や保安院などが自らの指示に抵抗すると「俺の知っている東工大の先生と議論してからこい」と言ったそうです。
 各省庁は阪神・淡路大震災を先例にさまざまな被災者支援や復旧策をひそかに準備してきました。ところが政務三役の「政治主導」が障害となりました。民主党政権になり政務三役に無断で仕事をやってはいけないという「不文律」が出来上がっていました。「勝手なことをやりやがって」と叱責されるのを覚悟の上で官僚機構は黙々と対策を練ったそうですが、実行の目途は立ちませんでした。政治不在がいかに恐ろしいものか官僚は思い知ったそうです。

天災それとも人災?その4

1号機のベントに踏み切ったのが地震発生後15時間経過した3月12日午前10:17、その5時間後、1号機は水素爆発、ベント実施が遅すぎたのです。この後、相次ぐ原子炉建屋などの水素爆発は保安院が全く想定していなかった出来事でした。3月14日午前11:00には3号機建屋爆発、3月15日午前6:10には2号機で大きな爆発音、同じく3月15日午前9:38には4号機核燃料貯蔵プールから出火しました。まるでもぐらたたきゲームのように起こる危機。「保安院や東電は明らかに判断能力を失いつつある」。「説明が二転三転している」。高い放射線濃度の中で、炉の冷却のために命を張っている自衛隊員を指揮する防衛相や同省幹部を含め、政府内の保安院や東電への不信感はピークに達しました。
 ではこの不信感は何処からどうして生まれてきたのでしょう。
2.官邸機能せず「何かあったら、お前らのせい。」(一部産經新聞より)
東工大応用物理学科卒で「ものすごく原子力に強い」と自負する管総理はさっそく執務室にホワイトボードを持ち込み炉心溶解の可能性を保安院に指摘され、炉内の蒸気を排出するベントを急げと指示を出しました。しかし、トップ不在の東電の反応は鈍く、首相はしびれを切らし地震発生翌日の午前6:14陸上自衛隊のヘリにて視察を強行しました。武藤栄東電副社長にベントを急ぐよう詰め寄り、秘書官に当たり散らし、保安院幹部らの説明にも、「お前たちは現場を見ていないだろ」と納得せず、面識もない官僚に突然電話で指示をだし、「何かあったら、お前らのせいだぞ。」と責任をなすりつけたそうです。

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天災それとも人災?その3

2001年2月10日、ハワイ沖で日本の高校生の練習船「えひめ丸」が、アメリカ海軍の原子力潜水艦と衝突して沈没、日本人9名が死亡するという「えひめ丸事件」が発生しました。当時の森喜朗総理は第一報が入ったときゴルフ場におり、衝突により日本人が多数海に投げ込まれたことや、相手がアメリカ軍であることも判明していましたが、総理は第2報の後第3報が入るまで1時間半の間プレーを続け、これが危機管理意識上問題とされました。この事件の報道で森総理のゴルフプレイ姿が繰り返し放送されたため国民には悪印象が増幅し、マスコミにこのことを問いただされた総理が「プライベートだ」と答えたことで批判は拡大しました。事故を起こしたアメリカ側はブッシュ大統領が「事故の責任は全てアメリカにある」と謝罪しましたが、マスコミはこれを異例の素早い対応と評価、日本の事故処理の印象を一層悪いものとしました。
 その後も国家の危機管理に関して日本のリーダーには素早い危機対応能力を見せていただけた方は数少ないと思われます。これらの教訓から危機に瀕したリーダーに求められる初動は「我ここにあり」と自分の存在場所を内外に示し、そこに情報を集約することだと思われます。次にすべきことは送られてくる膨大な情報を冷静かつ客観的に整理・選択して、とるべき対応策のいくつかを提案できるブレーンを集め機能させることだと思われます。    
 この点に関して、現在批判されている管政権の初動に関しては大きな問題はなかったように思われますが、問題は次のブレーンの作り方にあったように思います。これに関しては後日詳しく述べますので、東電福島第1原発 一か月の動きに話を戻しましょう。

天災それとも人災?  その2

 3月12日午前1:00過ぎ、1号機の炉内圧力は設計値の1.5倍に達し、原子炉は危険な状態になりました。もはや、発生する蒸気のベントしか手がなくなりました。ベントとは高濃度の放射性物質を含む炉内の水蒸気を圧力調整弁により意図的に外部に放出して原子炉の崩壊を防ぐ、いわば非常時の「禁じ手」といえるもので、過去日本で行われた例はありません。午前1:30、弁を開けようと努力しますが、もはや電源は失われ、自動から手動へ、暗闇で作業は進みません。1号機の格納容器圧力は明け方には設計値の2倍を超えていました。1号機のベントに踏み切ったのが12日午前10:17、5時間後1号機は水素爆発し、建屋が吹き飛びました。
 3月11日夕方には必要性が認識されていた1号炉のベントは実行までになぜ15時間もかかったのでしょうか。地震発生当時、東電の勝俣会長は北京に、清水社長は関西に出張中でした。地震で空港が使えず、鉄道もダメ、道路も渋滞し、トップ不在は地震発生から約20時間に及びました。その間、東電の現場は重大な決断を次々に迫られました。ベントをすれば放射能汚染の可能性があり、企業への社会的責任を問われる重大事態となり、多額の賠償が発生する可能性があります。炉心への海水注入も廃炉覚悟の行為で、廃炉となれば1基1000億円規模の費用が発生します。遠い中国から、関西から、携帯電話で指示が可能だったのでしょうか?
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(天災それとも人災?  その1)

今日は5月10日、あの東日本大震災から2か月が経過しようとしています。
この度の大震災の犠牲となられた皆様のご冥福を謹んでお祈りし、被災者の方々に心からお見舞いを申し上げます。
ちょうどひと月前の4月10日、私たちの所属する国際ロータリー2700地区大会の特別記念講演は櫻井よしこさんの「日本よ、勁(つよ)き国となれ」というタイトルでしたが、その殆どが大震災と福島第一原発事故に対応すべき政府の不手際を問題視する内容でした。また、その日は統一地方選挙の前半戦の選挙日にあたり、翌日の朝刊は選挙結果の報道を控えておりましたので、大震災1か月を振り返り新聞各紙はその総括を載せていました。その中で、讀賣、日経と産經新聞の記事は強く心に残り、櫻井氏の論調にも共通するものでした。現在、管直人内閣の失政が際立って報道され、与党出身の西岡武夫参議院議長から「やるべきことをやっていない。今の状態で国政を担当するのは許されない」と2度までも異例ともいえる首相の進退に言及されています。大震災という歴史的な国難に対して求められる一国のリーダー像について、過去のわが国のリーダーと海外のリーダー、さらには最近読んだ「昭和史」(平凡社)の半藤一利氏の日本を歴史的な国難である敗戦と焦土に導いてしまった軍の高級将校のそれと対比しながら述べてみたいと思います。
1. 福島第一原発 一か月の動き(一部讀賣新聞から)
平成23年3月11日午後2時46分、1000年に一度といわれるマグニチュード9.0の大地震が東北地方太平洋沖で発生しました。地震発生の直後、官邸、経済産業省原子力安全・保安院(以下保安院)、東京電力(以下東電)も安堵感につつまれていました。福島原発の運転中の1~3号機は緊急停止し、バックアップ用の非常用ディーゼル発電機も起動したと伝えられていたからです。しかし、その後の津波で非常用電源13大中12台が損壊し、原子炉冷却機能が失われました。ただちに、東電は電源車をかき集め現地へ向かわせましたが、道路は渋滞し、現場近くの道路は寸断され前に進むことはできませんでした。さらに準備不足が露呈します。接続用の低圧ケーブルが足りなかったのです。12日午前0:00を過ぎても電源は回復しませんでした

最近の日本、何かおかしくないですか?(その20)

医療における「なにが無駄か」を論じる前に、昨年末にBS朝日で紹介されたセルフメディケーションの概念を簡単にご紹介いたします。その番組は大手一般大衆製薬メーカーが、国民が自分の体調は自分で管理することの重要性を紹介し、市販薬を上手に使うと初期治療にいかに役立てるかを宣伝することを目的に構成されていました。例をあげると、風邪の初期症状で一般薬を服用し、安静に過ごしたために軽快した妻と比べ、薬も飲まず無理を押して風邪をこじらせ、結果的に医療機関を受診し、高い自己負担を支払わなければならなかった夫は、損をしたでしょう、というストーリーです。しかし、実際は個人負担は一般的に3割ですから、残りの7割は国家がと保険者が負担しているのです。
 セルフメディケーションの重要性を、世界一医療費の高いアメリカで示したアッシュビル・プロジェクト報告は圧巻でした。ノースカロライナ州アッシュビル市役所では、慢性的な疾患は薬で治療可能で重症化が抑えられるという発想から、市の職員の薬代やカウンセリング料を市が負担する代わりに、慢性病を持つ職員は定期的に薬剤師のカウンセリングを受けることを義務付けていました。薬の服用状況や副作用のチェック、生活習慣の指導、血圧・体重等の基礎データの測定し、医師の定期診察に報告書を持参させるなど、病気を自身の問題と意識付けさせ、病気とうまく付き合うために身近なパートナーとして薬剤師を活用したのです。カウンセリングで異常に気づいた場合、医師へ処方の変更を希望するカウンセリングメモを渡すこともできるそうです。その取り組みの結果、病気の重症化や手術などを必要とする重度の合併症の頻度は激減し、市の支払う医療費補助は驚くほど低減したと紹介されました。また、病気の重度化に伴う職員の欠勤を補充するための費用も以前とは比べられないほどに減ったそうです。病気を自分の克服すべき問題と自覚させることの重要性を示しています。この結果を受け、全米50州のうち44州で医師と薬剤師の協働が法律で認められ、セルフメディケーションが速いスピードで広がっているそうです。
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最近の日本、何かおかしくないですか?(その19)

 ある日の朝刊に歯科の受診抑制が顕著であるとのコラムが載っていました。国民の過半数が歯科受診時における医療費の支払額が高すぎると感じているそうです。そして、保険適応の範囲の拡大を望んでいるとありました。歯科を受診した場合、保険適応の範囲が限られているために、支払いが心配でつい受診を控えてしまう人が多いそうです。う歯(虫歯)や歯周病は自然治癒力が弱いために、放っておくと病状が進行し、大きな負担となってしまうケースが少なからずみられると書いてありました。
 国立社会保障・人口問題研究所の阿部 彩部長は最近、雑誌にこう報告されています。
「国民皆保険が達成されてから、今年で50年となる。すべての国民が医療サービスを受けられるようにという願いの下に設計された国民健康保険制度(以下、国保)であるが、成立から半世紀たった今、皮肉にも国民皆保険は瀕死の危機にある。国民の約4割は国保に加入しているが、その保険料の滞納率は20.8%(2009年6月)。なんと加入している5世帯に約1世帯が保険料を払えない状況にあるのである。滞納を続けると交付される被保険者資格証明書(実質的な窓口負担が100%となる)の交付数は、約31万世帯にもなる。保険証さえも持てない人が増えているのである。問題は、保険証を持てない人のみではない。たとえ、保険証を持っていたとしても、自己負担が払えないという理由で受診を控える可能性は十分に考えられる。-後略-」と、負担の格差是正を主張されています。
 本年3月3日の朝刊に受診遅れのために、命を落とす人が増加しているとの報道がありました。全日本民主医療機関連合会の調べでは、前年の47人が2010年には71人が受診遅れのために死亡したとしています。癌や糖尿病で亡くなった人が多く、高額な治療費を心配して病院に行くのをためらったためと分析しています。もはや国民皆保険制度は崩壊しているようです。

最近の日本、何かおかしくないですか?(その18)

「社会保障と税の一体改革」の国民的議論は不可欠です。しかし、いつの時代も「お上から下される沙汰に悪いものはなかろう」と国民は「ひとごと」のように受け入れてきました。国民の代表が集まって議論するのが国会なのだから(悪いようにはしないだろう)と、他人事にさせないために、さらには制度が導入されてから低次元の批判ばかりを浴びた後期高齢者医療制度のようにしないために、国民に当事者意識を持って考えてもらえるよう、国は情報発信をもっと行う必要があるのではないでしょうか。
例えば、消費税を5%上げてもらえば、健康保険証を持たない保険料滞納者の医療費負担の肩代わりをしますよ、路上生活者を増やさないための社会のセーフティネットワークを厚くします。その代わり増え続ける年金をコントロールするため、一律3%カットさせて下さい、長期的にみてインフレ懸念もないこのデフレ時代に年金受給者が優遇されているという意見が多いので、今後も年金カットの議論はさせてください、消費税は10%からこういう間隔で、上げていかざるをえないですよね、などなど、議論の過程で国民に当事者意識を芽生えさせるための情報発信です。恩恵を受けられる人がいれば、必ずそれを支える為に我慢を強いられる人がいる。いいこといいことの情報発信ばかり選挙民に与えてきた政治家も反省すべきだし、国民にはそれを当事者として負担を分かち合う議論に参加することが求められるのではないでしょうか。孫子の時代に付け回しを残さないために、わずか50年前についついはじめた赤字国債による膨大な財政赤字を縮小するために、どこに配分し、誰が我慢をするのか、国民主権と国民の義務はコインの表裏の関係です。
サッチャーは英国史上最も不人気の首相と言われながらも、徹底した意思と実行力で11年間君臨し、英国を立て直しました。キャメロン党首も言っていたように、民に辛いことを強いるときこそ政治家主導の誠実で真摯な議論が望まれると思います。

最近の日本、何かおかしくないですか?(その17)

まずは、東北地方太平洋沖地震により被災された皆さまに心からお見舞い申し上げます。
国会議員に限らず政治家は選挙民により選出されます。国民から集めたお金(主として税金)をいかに配分するか、一言でいえば政治はそういうものだと思います。セーフティネットとしての社会保障を厚くすることは、いつの時代でも選挙民に歓迎されることは間違いありません。しかし、社会保障をより厚くすることは、より多くの税金を集めることが前提です。選挙民に阿って耳障りのいいことばかり言ってきた、選挙民に増税のお願いをすることから逃げてきた歴代の政治家により国や地方の借入金残高は900兆円を突破しています。「社会保障と税の一体改革」はまさに今後の日本に負担を先送りさせないための待ったなしの課題です。社会保障の財源は赤字国債で賄われており、財政赤字を放っておく訳にはいきません。どのように歳出削減をするのか、言いかえれば、何が無駄なのか、弱者救済のために何を削るのか、その一方で福祉の中にも無駄はないのか、消費税はどのようなシナリオで上げていくのか。国民的議論の必要な協議の場に、与野党を問わず国民に選ばれた、国民の代表である議員は正々堂々速やかに着くことが必要なのではないでしょうか。管政権も現在の状況では「社会保障と税の一体改革」の結論を得たいとする本年6月を迎えられるか定かではありません。一気に総選挙となり、政権が交代することも可能性としては大きいと考えられます。わが国の行く末を左右する大事な議論です。ころころ変わる政権党や首相に影響を受けることは避けなければなりません。したがって、この議論を取り仕切る委員会は常設委員会としてしっかりと継続的に活動して頂きたいと願っています。
“ゆでガエルの危機”に例えるのはどうかとの思いがありますが、わが国は危機が来てから右往左往することが多すぎる気がします。豊かなうちに変えないと体力が持ちません。