説明支援ナース登場の訳~その5~

 一方、患者さんにとっても何でも質問できる雰囲気の中で、何度でも読み返せるパンフレットを用いての説明は価値の高いものになると考えます。自分がどういう病気で、何のためにその手技が必要で、どういう利点と欠点があるのか、合併症が起こった時にはどういう処置をしてくれるのか、そしてそのほかにどのような手技や方法があるのかを知った上で、自分で一つを選択できる、これこそ患者さんが求める知る権利に応える最良の方法の一つに違いありません。事実、われわれの病院でこの方法で説明をさせていただいた患者さんの評価と満足度はことの外高く、時間の節約とストレスの軽減の面から担当医からもよい評判を頂いております。お時間があれば、<理事長メッセージ>ページの<急性期医療の取り組み>内にある、<~碇医師~ストレスからの解放>をご覧ください。
http://www.tominaga-message.com/m_kyuseiki.html
 とくに、手術の場合には家族の同意が欠かせません。高齢の患者さんのみの外来受診ではその日のうちの承諾書作成は無理な話です。DPC制度下の現在、緊急手術を除いて予定手術までには時間があります。医師に代わって説明支援ナースが家族と面会説明し、納得が得られた時点で医師を呼び承諾書を作成します。「遠方だし、仕事が忙しいから行けない」と答える家族の言葉はそのままカルテに説明支援ナースが記載します。合併症が起こった後で「大事な母をこんな目にあわせて」とおっしゃるなら、大事なお母さんの大きな手術の前に合併症が起こりうることは理解すべきだと思うからです。そんな場合も、メールでパンフレットを送ってさしあげるといいのかもしれません。メールでの応答の後、承諾書にサインが頂ければ問題は解決するものと思われます。

説明支援ナース登場の訳~その4~

 外来の看護師さんの中から選抜して、医師の説明の一部を代行するナースを育成する。診察・診断はもちろん医師の役割で治療の必要性までを医師が説明した後、実際の手技に関して代行して説明する。対象はパスが作成できるような各科の一般的な検査や手術に限定してスタートする。説明はその範囲、程度にバラツキがあってはならないので医師が主導して検査・手術の説明用パンフレットを作成する。それを用い説明支援ナースがもらさず説明し理解を求める。パンフレットにはその手技のあらましを図解し、その手技の優れた点、平均的な経過、大まかな費用等とともに、重篤な合併症の種類と国内でのその発生頻度と当院の頻度、合併症が起こった場合の処置方法などのネガティブデータも明記する。さらには、勧めている手技以外に問題解決にどのような選択肢があるのかを挙げ、患者さんや家族に選択させ納得していただく。

 われわれの病院では手始めに消化器科と泌尿器科がこの業務を始めました。消化器科では上部消化管内視鏡検査、大腸内視鏡、ポリペクトミーを、泌尿器科は腎盂造影、膀胱造影そしてウロストーマを選びました。種類は少なくても各々両科の基本的な検査であり、手技でありますので、対象となる患者さんは多く説明支援ナースのおかげで外来において担当医が節約できる時間の総量は大変なものになりました。また、そのパンフレットに書いてあることを説明し、承諾を得たことをカルテに明記してくれますので、「聞いてない」「承諾していない」など不毛の言い争いをすることから解放されますので医師も安心です。忙しい外来時間での何よりのストレス減らしの方法の一つと思われます。

説明支援ナース登場の訳~その3~

 その患者さんが退院されたあと、病棟には疲労感と失望感が漂いましたが、この問題の解決策はなかなか見出すことができませんでした。しかし、意外なところからヒントを頂き、たどり着いたのがこの説明支援ナースでした。 3~4年前、小泉首相の背中を押していた経済財政諮問会議の方々が、「株式会社が病院を運営したらこんなことができる」としたリストに、「医療通訳者」があったのです。医療を部外者から見たら、病院外来の説明は不足しているし、専門用語だらけで難しいので、理解させるための有料サービスとして医療通訳者を提案していたのです。 すでに無料で取り組んでいる医療機関があることも知りました。福井県済生会病院の副院長先生の考案でしたが、外来でどうみても医師の言うことを理解できていない患者さんが少なくない。そういう場合には医師や看護師のオーダーで「メディカル・コーディネーター」を呼ぶことができる。メディカル・コーディネーターは患者さんと医師との中間よりやや患者さん寄りの立場で、病状と治療方針を説明し理解して頂く。そうすることによって、患者さんの不安がなくなり誤解が減れば病院にとって好ましいことになると話しておられました。 ただ、この話を聞いた医師の中には、「コーディネーターがそのケースに合わない不適切なことを説明したら、修正するのにかえって手間ひまがかかる」と敬遠される先生もおられました。これらを参考にして私が考えた説明支援ナースの骨子を次回お話します。

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説明支援ナース登場の訳~その2~

 5、6年前、われわれの病院で医療事故が起こりました。下部胆管狭窄の女性患者さんに対してERCP 、乳頭拡張術の術中に起こったもので、操作により膵管を傷つけ急性膵炎を起こしました。CT検査で腹水が貯留し、重症膵炎の状態でした。患者さんのご家族の2人の息子さんたちは遠方にお住まいのため、検査の事前の説明は消化器内科医が患者さんご本人にのみ行っていました。ERCP,EPBDの手技や合併症を含めて詳しく図示しながら説明していましたが、息子さん達には伝達されていませんでした。事故の後、後腹膜ドレナージの必要性から若手の外科医も治療に加わりました。急遽息子さんたちに来院していただき、医師団から状況説明がなされましたが、ご家族からは強いご不満と厳しい指摘の声があがりました。病状は一進一退を繰り返し、一時はショック状態に陥りましたが、幸いにも一命を取り留めました。遠方から通ってこられるご家族には大変なご不自由とご負担をおかけいたしましたが、一方で、当院の医師も週末は家族説明のため、休日出勤を余儀なくされました。病棟看護師に対するご不満も多く、例えば「24時間看護のはずなのに、何時も母に看護師がついていない、だから痛みがとれていない」などたびたびお叱りを受けました。入院は10か月に及びましたが、無事に退院を迎えたスタッフは、患者さんに申し訳なく思うのと同時に、合併症を医療ミスと誤解されてしまった後では努力してもコミュニケーションはとれず、説明の大切さをいやというほど知らされました。スタッフも大変なストレスだったと思いますが、私にとって最もショックだったのは、それから暫くして治療にあたったその30代の前途有望な外科医が、燃え尽きてわが病院を辞めてしまった事でした。理事長に就任して4年、大きな試練の一つでした。

説明支援ナース登場の訳~その1~

 医療事故の報道があとを絶ちません。誤認や技術不足が原因とされる報道に加えて、最近目立って増えているものに、説明義務違反があります。「医師から説明がなされていなかった」、「聞いていなかった」等により病院や医師個人に賠償責任を求めている事例です。医療崩壊(本当は病院崩壊ですが)が社会問題になってからは、マスコミの報道の仕方も以前のように一方的ではなくなりましたが、医療事故に対する患者・家族の視線の厳しさに、医師が訴訟リスクを嫌って、勤務医を辞めて開業医に転じている原因になっているのは変わりません。 

 多くのケースでは、医師はある程度は説明していたのだろうと私は想像しています。しかし、言葉が足りなかったり、難しすぎて患者さんや家族の記憶に残せなかったのだろうと思います。そして、カルテにその記載を残さなかったので、医師の言い分を証明するものが何もなく、医療の結果が悪い場合には説明義務違反を問われてしまっているのです。

 われわれ医療人には常識であること、すなわち医療には限界があり、生命予後には不確実性を伴うことを、われわれは患者さんに平易な言葉で伝え理解していただく必要があります。検査や手術には予期せぬ合併症を伴うことを認識していただくことが不可欠です。予期せぬ出来事は何%くらいの確率で起こるものなのか、そしてそれが現実に起こったときはどう対処するのか、もしわれわれが患者さんの立場であれば当然知りたい事柄です。そして、最近の裁判所の判断はそこまでの詳しい説明をすることが医療提供側の義務としています。 

 しかし、これだけの説明を忙しい外来医師が完璧に行うことが可能でしょうか。カルテにその証拠を残さなければなりませんが、漏れはないのでしょうか。家族が入れ替わり、何度も求められる説明に果たして医師が対処できますでしょうか。勤務医にとって極めて大きなストレスだと思いますがいい解決方法はないものでしょうか。

これみんな先生方がなさいますか3

現在、地方における医師不足が深刻です。佐世保中央病院も例外ではなく、医師の過度な負担を軽減するために、医師でなくでも代行できる部分をサポートしたいと考え、法人を挙げて取り組んで参りました。既に着手できたものとして、医療秘書説明支援ナースが挙げられます。医療秘書は、すでに多忙なDr.をサポートする体制には欠かせない存在です。加えて説明支援ナースは、検査や手術の方法、予想される経過や起こりうる合併症の種類とその発生頻度、その対処法などを、患者さんや家族に詳しく、優しく、そして繰り返し理解させてくれる存在です。次に多職種協働で行ってきたことは、患者さんや家族への支援です。まず、自覚症状に乏しい糖尿病、高血圧、高脂血症など生活習慣病患者を心筋梗塞や脳血管障害に至らせないために、根気強い教育的支援・指導が必要です。すでに始まったメタボ対策をはじめとする予防医学への取り組みが期待できる施設は、佐世保地区においては、種々の療養指導士が実働している当院のみだと思われます。さて、これからは、これらをさらに一歩進めて、看護師の専門性を発揮できる場の提供を行いたいと考えています。それは、『看護師による看護外来』という構想です。前述しました糖尿病療養指導士、リウマチ膠原病療養指導士、説明支援ナースに加えて、緩和ケア、感染制御、皮膚ケア(WOC)、NSTなどの認定看護師や法人内認定看護師が各科の枠を超えて、患者さんのために活躍できるような『看護外来』をつくりたいと考えています。専門的な看護師の立場からの評価と指導は患者さんにとって強い精神的サポートや当院への信頼に繋がると確信しております。患者さんが病気を理解し、自ら戦うには、時には強く、時には優しい頼りになる身近な相談者が必要だと思うからです。リンパ管マッサージや指導を行うリンパ浮腫支援相談室、ブレストケアナースが中心となって脱毛や精神的支援も併せて行う乳がん支援相談室、などなど様々な取り組みが期待されます。医師としてやりがいのある夢を現実のものにしようではありませんか。

これみんな先生方がなさいますか2

平成17年9月に栄養看護外来はスタート致しました。当初はHbA1cって何?と真顔で質問する患者さんも多く見られましたが、患者さんそれぞれに少なくとも一日15分実施する療養指導を始めて以下のような結果となりました。先生方の情熱を傾けた診察が徒労に終わらないように、スタッフ全員で頑張った結果です。

(1)栄養看護外来前後のHbA1c値

平成17年3月(開始前) 7.06%
平成18年8月(開始後11月)  6.90%
平成20年10月(開始後約3年) 6.61%

(2)血糖コントロール区分の推移

栄養看護外来開始後から血糖コントロールの「優」「良」区分の患者割合が増加、「不良」「不可」が低下

(3)糖尿病性壊疸の発症推移

平成14-17年(開始前3年間) 7例    平成18-20年(開始後3年間) 0例と糖尿病が原因で下肢を切断する患者さんはいなくなりました

(4)糖尿病性腎症による透析導入患者数の推移

平成19年まで透析移行患者数は20名/年前後からなかなか減少しませんでしたが、平成20年は9名と大幅に減少がみられています。

(5)栄養看護外来開設後の医師の意見

①診察室で多くを語らなくても済むようになった。以前は1人5分~10分を要する診察時間が5分前後になった。医師自らが診察を終了させようと焦ることがなくなった。

②生活習慣などの説明負担が減り、疾患などの説明に時間をかけることができるようになった。

③医師に言えないことを看護師らには話せている。患者の気持ちの負担は軽減されている。

(6)栄養看護外来開設後の患者の意見

①診察の前に栄養士・看護師と話せる時間が取れるようになり、今の自分の気持ちを気軽に伝えることができる。

②食事・運動の振り返りを一緒にしてくれるので、心強く協力者がいるという気持ちになれる。だから頑張れる。(以下次号)

これ、みんな先生方がなさいますか1

「よーく教えてくれるし、何でも聞けるので満足しています。」佐世保中央病院糖尿病センターに通うある外来患者さんのコメントです。『朝9:00来院。先生の予約は10:00だけど、受付後に血液の検査。HbA1cは15分後に糖尿病療養指導士(CDE)さんがその結果を教えてくれて、最近の食事摂取量の評価もしてくれる。その後合併症のチェック。フットケアから眼科受診のスケジュール作成まで懇切丁寧に教えてくれる。そして、患者として知っておくと役に立つ糖尿病の知識に関する説明がある。先生にはなかなか聞きにくいけど、この雰囲気なら何でも質問できる。そうこうしているうちに先生の診察。検査結果は電子カルテに表示されていて、それを確認しながら「今日は何でも質問できましたか? 新しい情報はありましたか?」と先生。診察時間は数分だったけど、なんだかたっぷりと看護師や医師と話し合えたようで、そのせいか毎日少しずつ前向きに考えられるようになりました。』これが糖尿病センター長である松本先生と私が目指したセンターの基本コンセプトでした。そして関係各位の大変な努力でほぼ構想通りに現実のものとなりました。先日の新聞各紙に当院の糖尿病センターが紹介されましたように、2人のDr.で約1400人もの糖尿病患者さんを管理し、かつ高い満足度が得られている秘密は、Dr.と18人ものCDE(看護師、管理栄養士、薬剤師、検査技師、理学療法士)を中心とするチーム医療です。佐世保中央病院リウマチ膠原病センターが、高い集客力と満足度を生み出している秘密にもリウマチ膠原病療養指導士の活躍があります。リウマチのように多臓器に病変の及ぶ疾患では患者さんの心も含めた全身管理が必要になります。そのためには十分な時間と観察力が求められます。このように、患者満足度の高い良質なケアのために、多忙な医師に代わって全身状態を把握し、現在の状況をひとまとめしてくれるエキスパート・ナースが必要となるのです。医師が誠心誠意情熱をふりそそいで患者教育を行っても、成果に結びつかない原因に、患者さんの無知と無理解がありました。しかし、佐世保中央病院が糖尿病センターにて3年前から行ってきた看護外来(我々は栄養看護外来と呼んでいます)では以下に述べるような成果を挙げました。(以下次号)

専門性を活かせる仕組み作りを

医師個人の専門領域の患者さんを集める仕組み作りを考え、チャレンジしようと思っています。
例えば、佐世保中央病院小児科には2人の先生にご勤務頂いておりますが、お一人は小児循環器の、もうひと方は小児神経領域のご専門です。東京など大都会ではいざ知らず、地方では個々の専門領域の小児患者数は少なく、得意とする領域、自信のある疾患の治療の機会が少ないことに少し淋しい思いをされているのではと拝察しています。
もちろん、お二人とも一般小児診療を日々忙しく精力的にこなされ、佐世保市の小児救急医療にも他病院と連携して活躍されています。私は一般領域の診療に注力することが大前提ではありますが、それに加えてご本人が得意とする分野の患者さんを集めることを病院がお手伝い出来たらいいなと思っています。発生頻度の少ない病気であればある程、その専門家に診ていただきたい母親は西九州全体では少なからずいらっしゃるのではないかと思うのです。そのニーズと専門医を結ぶ、すなわち点と点を結ぶ仕組み作りを現在模索し、行動に移しつつあります。うまく運びましたら、詳しくご報告いたします。

一年間の想い

この度、私、理事長富永雅也のメッセージサイトを立ち上げました。
この様なメッセージサイトの発想を持ったのが、約一年前になります。
たくさんの人たちにご協力を頂き、ようやくアップにこぎつけました。
サイトをつくる過程の中で、常に頭にあったことは、新臨床研修制度になり、
地方における医師の確保がかなり困難になり、行政などに頼るだけではなく、
「我々自らが考え、行動しなければ。」という想いがありました。
このサイトを通して、勤務医の皆さんに向けて伝えたいことを動画を活用し
作成したつもりです。
今後もタイムリーに伝えたいと思う情報がありましたら、このブログにて、
お伝えしていきます。
御質問や不明な点などございましたら、お問い合わせフォームより、ご連絡ください。

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