白十字会訪問診療医育成プログラムのご案内

背景
 臨床医のライフイベントとしてこれまで常識として通用してきたスタイルは、初期研修を終えて大学病院や関連病院で専門領域の研鑽を積んだのち、「部長等の管理職として病院勤務を続ける医師」もいれば、「適地を探して開業を目指す医師」もいらっしゃいました。医師不足の声に応えて、大学では“地域枠”と称して定員増を図るなど、平成年間に医師国家試験合格者は確実に増加し、若手医師は続々と育ってきているのが現状です。一方、日本の病院数はピーク時の約4分の3に減少し、今後は公的病院同士の合併、私立病院の廃業や介護医療院への転換等、病院における医師のポストは次第に減っていくのは確実です。それでは、開業の道は開かれているのかと言えば、これもなかなか厳しい現状があります。白十字会の本部がある長崎県やお隣の佐賀県では、届け出診療所の数はここ数年減少の一途です。白十字病院のある福岡県では人口増加に伴い届け出数は微増してはいますが、特に診療所の集中する福岡市内での開業適地は少なく、ビルクリなどの開業も最近ではめっきり少なくなりました。
不足している訪問診療医
 平成30年の診療報酬改定の目玉の一つが在宅医療の報酬をより手厚くしたことでした。病院完結型の医療から、慢性的に管理が必要な患者さんの多くを在宅診療へ移行させる方針を明示しました。その根拠として、療養病棟の約7割強を占める比較的軽症の医療区分1の患者さんの約7割は在宅復帰が可能であることを挙げました。従って、病院から「かかりつけ医」に紹介する患者さんは、必ずしも診療所に通える方ばかりではなく、「かかりつけ医」が必要に応じて訪問し、診療を継続する能力を「かかりつけ医」に求める内容となっています。今後、国はあからさまに療養病棟での医療区分1の診療単価を低減し、病院に継続入院しても赤字経営になる誘導をかけてくることは明らかです。国として在宅に誘導しているにも関わらず、訪問診療医を養成する公的な仕組みはどこにも見当たらず、医師の自主性に委ねられている現状下、私どもの病院のある佐世保市や福岡市西区では訪問診療をされる診療所、特に在宅療養支援診療所(在支診)が極端に不足し、逆紹介をしたいと思っても、「忙しすぎて対応できない」と断られるケースが頻発しています。日本全体で登録されている在支診の数は一万数千に上りますが、実働している診療所は少なく、患者さんが望む自宅での看取りはわずかであり、相変わらず約8割の方が病院で亡くなっているのが現状です。
訪問診療医養成の試み
 なぜ訪問診療していただける医師が増えないのか、その理由を私どもなりに考えてみました。浮かんできたのは、「①在宅にて診療する患者さんの領域は自分の専門分野と重なりが少なく、不得手で自信がない」「②在宅患者さんを支えるいろいろなサービスの理解と申込先が判らない」「③訪問診療を一人で担当すると、24時間・365日は体がもたない」等が理由として挙げられるのではないかと思います。白十字会は佐世保市に生まれ、2019年で創業90周年を迎えます。この間、介護施設や訪問系サービスの充実を図って参りました。24時間対応の訪問看護ステーションや定期巡回随時対応訪問看護・介護等、きめ細やかな支援体制を帯同して学んでいただけることで、②の問題は解決できると考えました。①の解決には、同じ病態の患者さんが治療を待つ医療療養病棟、地域包括ケア病にてご勤務頂ければ、数年後のご自分の訪問診療に必要な病気の理解や管理方法を学ぶ絶好の環境であると考えました。
 そこで、我々の法人で自ら訪問診療医を養成するプログラムを整えてみようと思い立ちました。③に関しては、一人で訪問診療に取り組もうとすると身体的にも精神的にも持たないのは当然です。日本の医学教育における一人主治医制の影響であろうと考えます。白十字会の療養病棟では複数主治医制を運用しておりますので、在宅の現場でも優秀なケアマネージャーや訪問看護師がグループ診療の間を取り持って、地域における複数主治医制を構築し、互いに補完し合える仕組みを整えたいと思います。
 (株)総合メディカルの開業支援セミナーの講師として、7月に大宮市で私どものプログラムの骨子を話させていただきました。(株)総合メディカル発行の「D to D」に取材いただき、掲載いただいた内容を次に示します。

訪問診療医育成プログラムの概要について
(総合メディカル 雑誌「DtoD」インタビュー記事より)

[インタビュー]富永雅也 社会医療法人財団白十字会理事長

働きながら学ぶ、在宅医療のスキル
「病院から在宅へ」という流れのなか、在宅診療医の需要が急増している。これから開業したい医師にとっても、在宅診療は将来性が見込める分野だ。ところがその在宅診療医が、なかなか増えてこない。在宅診療医の実際は、どうなのか。社会医療法人財団白十字会では、療養病棟や回復期病棟で働きながら、訪問診療に必要なスキルを学び取り、1~2年後に在宅療養支援診療所(在支診)として開業する養成コースを来年度から開始する予定だ。富永雅也理事長に、在宅医の現状や養成コースの詳細についてうかがった。
開業が厳しい時代に、厚遇される在宅支援診療所
いま、国の医療政策は、病院から在宅へと大きく舵を切っている。少子高齢化により税収が伸び悩む一方で、今後も医療費は増え続ける見込みだ。国は、高額の医療費がかかる入院をできるだけ減らし、在宅へ誘導しようとしている。「国は療養病棟に入院している約7割を超える軽症患者(医療区分1)のほぼ7割の方は在宅復帰が可能であると指摘し、自宅や高齢者住宅を軽度者の療養の場と位置づけています。かかりつけ医に対する退院時の医療情報の提供を評価し、慢性的な医療管理が必要な患者さんの約半分を在宅に返し、かかりつけ医による訪問診療への移行を促しています。診療所には通院できる患者さんの診療ばかりでなく、その状況に合わせて訪問診療を担当させたいと考えています。2012年に制度化された在支診は、診療報酬上高くて評価され、その収支は良好とされています。社会から必要とされる診療所です」と富永氏は続ける。「地域包括ケアシステムの中心的存在であるかかりつけ医が重視されビルクリニックでの開業は厳しくなっています。また、大都会への偏在を解消するため、東京は3年ほど先には『医師多数区域に指定され、新規開業が難しくなるという噂もあります。』
在支診では、患者や家族と信頼関係を築きやすい
診療報酬面で厚遇されているとしても、在支診の実態はどうだろう。富永氏は、4、5年前に、5人のドクターがーチームで3つの診療所を運営する北関東の在支診を訪問したことがある。「そこでは、患者さんや家族との信頼関係が強固なため、説明すれば家族が体温や脈拍測定などに対応してくれ、夜中の看取りも『翌朝行きます』で済むことが以前はあったそうです。訪問看護ステーションや優秀なケアマネジャーとの連携も重要な要素だということです。その結果、予定訪問以外に急に呼ばれる時間外往診は、月に3、4回くらい。見ず知らずの患者さんが次々やってくる病院当直医に比べると、気が楽だとも聞きました」と富永氏。なお、同規模の診療所と比べると収入は85パーセントくらいだが、支出がかなり少ないため収支としては非常に良いそうだ。富永氏は、白十字会の病院と連携する佐世保市の在支診の医師にも現状を聞いてみた。「患者さんや家族に密接に関わるため信頼関係を構築しやすく。患者家族からの紹介による新規患者も見込め、開業当初から立ち上がりが早いことが特徴です。その一方で、医師会や行政とも協議を重ねているのに、なかなか仲間が増えません。白十字会の3病院の周辺では在支診が不足し、紹介先さがしに苦慮しています。そこで、白十会が展開している在宅患者さんを支える医療・介護システムを教材に座学や実習などの教育システムを練り、在宅医を自ら育てるコースを作ろうと決意しました。」
在宅医を養成するための3つの課題を克服
 時代の要請として在宅医療の拡大が重視されているものの、登録のみで実働を伴わない在支診も多いという。「多くの診療所が本格的な在宅診療に踏み切れない理由は3つあります。一つは、医師の教育が細分化されすぎて、在宅医療に必要な知識や技術を学べていないため自信がないこと。次に、在宅の患者さんを支えるために必要な医療や介護サービスに詳しくなく、どこに申し込みをすべきかわからないこと。最後に、一人で24時間365日の対応をするのが難しいと思い込んでいることです」と富永氏。白十字会の在宅医養成コースでは、この3つの課題をクリアできるようにした。「医療療養病棟では脳梗塞後の廃用状態や尿路感染症、パーキンソン病、がん性疼痛、誤嚥性肺炎の患者さんが治療を待っています。はじめは、こんな患者さんを診るの、と思われるかもしれませんが、数年後には在宅医として必要な知識を学ぶ宝の山かもしれません」と富永氏は言う。必要とされる頻度の高い知識は、講演会を密におこない座学で学べるように計画している。しかし、実際の診療のためには実践的な技術を学ぶ場も必要だ。「療養病棟では、褥瘡、PEG(胃ろう)の交換、NST(栄養サポートチーム)などの回診を行います。そこに積極的に加わっていただければ、働きながら必要な技術を身につけられます」2つ目の課題、医療サービスや介護サービスの利用については、どうだろう。「在宅で患者さんを支え続けるには、医療だけではなく患者さんや家族を支える介護サービスの活用が欠かせません。在宅酸素療法の申込み先、在宅介護サービスの手続き、訪問看護・リハの申請など、どこでサービスの申し込みをするかを理解していただきます。来年で創立90周年を迎える白十字会グループには佐世保地区だけでも52の介護事業所があり、展開するサービスへの同行・帯同実習により地域包括ケアシステムを体験し、学んでいただけます。介護サービスの種類の熟知も大切です。例えば、ヘルパーが短時間の訪問を1日に何度もしてくれる定期巡回・随時対応型訪問介護看護を使えば家族の介護離職を回避することができます。小規模多機能型居宅介護と言う、訪問介護、デイサービス、宿泊を患者さんの状態や家族の都合によりフレキシブルに活用するサービスもあります。もちろん連携する訪問診療医の同意のもと、同行して実際に在宅患者さんを訪問していただき、患者・家族への声かけや後方支援病院との連携体制を理解する機会も数多く設けています」最後の24時間365日対応の問題はどうだろうか。「一人では厳しい場合も複数の診療所が連携して、24時間対応可能な体制づくりのための訪問看護師やケアマネジャーとの協働を学ぶことで、その課題も解決できます。連携する診療所が多ければ、互いの専門性でカバーし合えますし、突発する事態にも対応が容易です。今までは気心が知れない方との連携は難しかったのですが、同じ病棟で働き、同じ価値観を共有する仲間とならそれも可能になるでしょう。」富永氏は、現在、全国を回って養成コースに参加してくれる医師を募っている。今年7月29日には、さいたま市大宮区のソニックシティで開かれた総合メディカルの医院開業セミナーでも講演を行った。「私たちの養成コースでは、安定した収入を得ながら在宅診療に必要な知識と技術を学べます。1、2年後には、できればわれわれの病院の周辺で開業していただきたい。ぜひ私たちの仲間となってくださる方をお待ちしています。
いただいた質問とその回答
【質問】

新規開業の事業計画を作成するうえで、どの程度の在宅患者数を紹介して頂けるのか知りたい。

【回答】

まず、佐世保地区での実績を報告いたします。急性期病院である佐世保中央病院は7つの在支診の先生方に連携医になって頂いております。2017年度は7つのクリニック併せて計98名の在宅患者さんを受け入れていただきました。最多の診療所は42名、次いで25名でした。もちろん、紹介いただいた方をクリニックに戻した例は含まず、純粋に診療所初診の患者さんです。症例としては、褥瘡や胃瘻・経管栄養、癌のターミナルケアなど医学的管理が必要で、通院が困難な患者さんです。療養病棟と回復期リハビリ病棟で構成される当法人の耀光リハビリテーション病院からは、2017年度は計38名でした。2018年度はまだ半期の集計ですが、ほぼ2017年度と同様の結果でした。佐世保市内には、公的な急性期病院が3か所ありますが、それらの病院も癌のターミナルケアや看取りが必要な在宅を希望されている患者さんを多く抱え、その紹介先選びに苦慮している状態です。現時点での話ですが、市内の病院からは相当数の紹介患者さんの見込みがあると言えるのではないでしょうか。白十字会で訪問診療医養成にトライする意義はここにあります。
【質問】

末期がん、人工呼吸器管理など医療依存度の高い患者さんは、最初から診れないと思う。結局は上記のような患者を、押し付けられるのではないか?白十字病院に在宅診療部がないため、そのように捉えられる気がする。

【回答】

 白十字病院が在宅診療部を作っていない理由は、診療所の先生方に「いいところの大半を取られてしまうのではないか」といったご心配をかけない目的と、まだまだ訪問診療医を作れる体制になかったためです。このプログラムが成熟して、白十字会で訪問診療医としての開業を目指している先生方の中で、「やはり、人事管理には向かない」、「年齢が高いので、銀行が融資してくれない」などの理由で、病院勤務の続行を希望される先生が複数名いたら、在支診の先生方の代行診療や、急変時の受け入れのために白十字病院に在宅診療部を作ることも考える時期が来ると思っています。末期がんの患者さんの看取りには、病棟勤務を続けながら熟練した緩和ケアの先生の指導を目的とした勉強会での自己研鑽が必要で、とても1年で履修できるものではないと思います。このプログラムは最低1年の病棟勤務としており、熱意をもって継続勤務をしていただける先生は大歓迎です。福岡市早良区の二ノ坂クリニックのチームや、佐世保市の高名な緩和ケアの先生からご指導を得られる体制作りは整えて参りたいと思います。人工呼吸器管理も同様に自己研鑽の時間が必要です。ただ、どのレベルの技量をもって開業に踏み切るのかは、先生方の判断によるものと思います。白十字会としては、自信のない分野の患者さんを決して押し付けるようなことはこれまでもしたことはありませんし、これからも同様です。この他にも多数のご質問を頂いております。在宅医療・介護現場との協議を重ね、数週後にアップの予定です。
[お問い合わせ]
白十字病院(TEL:092−891−2511) 担当 松本まで