子どもの肥満

メタボリック・ドミノ

糖尿病(690万人),心不全(120万人),虚血性心疾患(80万人),脳卒中(29万人)などの主要な疾病の多くの背景には“メタボリックシンドローム(メタボ)”が関わっていて,長い期間をかけてドミノ倒しのように体内の異変が連鎖して疾病が完成します(下図)

このドミノ倒しの最初の異変が肥満,特に内臓脂肪型肥満です.小児であっても肥満があればドミノ倒しは始まるので,中等度以上の小児肥満の76%にインスリン抵抗性が,68%に脂質異常症が,50%に脂肪肝が見つかっています.肥満は小児期から健康を損ない,また,成人肥満の原因になって30歳代頃には生命をも脅かします.
慢性疾患外来で行われている診療についてご案内します.

【初回の診察】

紹介状をご準備の上,電話で初回の診察(初診)をご予約ください.当日は朝食抜きでみえてください.診断に必要ですので,母子手帳と身長・体重の成長記録(保育園,幼稚園や小・中学校)を必ずご持参ください.肥満には食事や運動,生活習慣が大きく関わっていますから,必ず子どもさんと同居の,子どもさんの育児に一番よく関わっている方(一般的にはお母さん)が一緒に見えてください.また,診察の際にはご家族の生活習慣病の有無とご両親の身長・体重もお聞かせ願います.
受付が済んだら,身体計測,血圧測定,問診,診察と検査がありますが,検査の結果が出揃うまでに時間がかかりますので,しばしば診察よりも検査が先になります.検査の内容は採血,検尿です.検査の空き時間を使って生活習慣の見直し,グラフ化体重日記の使い方の説明,小児肥満症の概要と治療についての説明を行います.

【治療の導入】

中等度以上の肥満があり,内臓脂肪型肥満や検査異常など治療が必要な “小児肥満症”に該当する方には,肥満度を下げて健康を回復するための治療方法を提案させていただいています.小児では成人に比べて肥満そのものの治療が可能なので,薬や手術ではなく,食事療法,運動療法,生活習慣の改善を治療の三本柱と位置づけ,概ね2年を目安にプログラムに沿った治療をご提供しています.2年を長く感じられる方もいらっしゃりますが,成長期の小児には成長段階に応じた栄養が必要で,短期間のダイエットは体と心の健康を阻害するのでお勧めできません.当院では2009年から130名以上の小児肥満症の子どもさん達の治療に取り組み,継続さえして頂ければ平均20%前後の肥満度低下を達成しています.治療には月に1回当院に通院して頂くやり方と,最初に2日間の教育入院を受けてから通院して頂くやり方の二通りがあります(下図).治療の導入が順調に進めば,紹介元などの開業の先生に協力していただいて当院への通院回数を減らすことも可能で(地域医療連携),特に教育入院から治療を始められた方の場合は退院後すぐから地域医療連携を始める事ができ,通院による学校生活への影響を最小限にする事ができます.初診の際の説明で内容にご納得いただけない,あるいは少し考えたいと思われる場合にも栄養指導まではお勧めしています.栄養指導は初診とは日を改めてご予約をしていただいています.指導に利用させて頂く目的で,予約日までに3日分の食事内容を,携帯電話やスマホの写真機能で撮影して来ていただいています.栄養指導の日にはグラフ化体重日記の記入のしかたの確認も行っています.

【治療の実際】

食事療法,運動療法,生活習慣の改善が小児肥満症治療の三本柱です.小児には成長段階に合わせた栄養が必要ですから,食事療法は年齢・性別・身体活動レベルに合わせた推定必要量を管理栄養士が指導し,栄養のバランスや食べ方についての助言を行なっています.運動療法は理学療法士が個々の生活リズムに合わせた身体活動を指導します.ただ,指導だけで食事や運動を含めた生活習慣が改善されるわけではないので,そこを毎回の診察時に話し合いながら治療を進めていきます.なお,成人と違って小児には基礎知識が乏しく肥満が健康に及ぼす悪影響について,ふつう何も知りませんので治療の導入期には多くの時間をショートレクチャーに充てています.栄養指導や運動指導を含めて治療の導入に通院では1年かかるところを入院では2日間で終わらせていますので,可能なら入院による導入の方が効率が良く,初診から1年間の肥満度変化を比べると通院のみに比べて短期入院ありの子どもさん達は改善が早く進みます(下図).治療の終了は,軽度肥満や正常肥満度を目指す,あるいは血液検査の改善を目指す,などそれぞれですから話し合いの中で確認していきます.

初診から一年間の肥満度の変化

【治療のコツ】

子どもさんが将来の健康を危惧して“本人の自覚で治す”と言うのはふつう無理ですが,治療期間中に子どもさん達が体だけでなく心にも思いがけない成長を遂げるのも事実です.治療をうまくやるにはご家族の全面的な協力が必要ですが,急がない事,怒らない事,子どもの心の成長を楽しむ事が治療のコツです.

専門外来のご案内