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ドクターが安心して働ける環境づくり~白十字会説明支援ナース登場の訳

当法人では医師の皆様の負担を軽減し、安心して働いていただける環境づくりの一環として法人内で認定した「説明支援ナース」を配置しています。 説明支援ナースの必要性と重要性を再認識し、説明支援ナース登場のいきさつを振り返りながら動画を交えてご紹介いたします。

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説明支援ナース

 

医療事故の報道があとを絶ちません。誤認や技術不足が原因とされる報道に加えて、最近目立って増えているものに、説明義務違反があります。「医師から説明がなされていなかった」、「聞いていなかった」等により病院や医師個人に賠償責任を求めている事例です。医療崩壊(本当は病院崩壊ですが)が社会問題になってからは、マスコミの報道の仕方も以前のように一方的ではなくなりましたが、医療事故に対する患者・家族の視線の厳しさに、医師が訴訟リスクを嫌って、勤務医を辞めて開業医に転じている原因になっているのは変わりません。

 

多くのケースでは、医師はある程度は説明していたのだろうと私は想像しています。しかし、言葉が足りなかったり、難しすぎて患者さんや家族の記憶に残せなかったのだろうと思います。そして、カルテにその記載を残さなかったので、医師の言い分を証明するものが何もなく、医療の結果が悪い場合には説明義務違反を問われてしまっているのです。

 

われわれ医療人には常識であること、すなわち医療には限界があり、生命予後には不確実性を伴うことを、われわれは患者さんに平易な言葉で伝え理解していただく必要があります。検査や手術には予期せぬ合併症を伴うことを認識していただくことが不可欠です。予期せぬ出来事は何%くらいの確率で起こるものなのか、そしてそれが現実に起こったときはどう対処するのか、もしわれわれが患者さんの立場であれば当然知りたい事柄です。そして、最近の裁判所の判断はそこまでの詳しい説明をすることが医療提供側の義務としています。

 

しかし、これだけの説明を忙しい外来医師が完璧に行うことが可能でしょうか。カルテにその証拠を残さなければなりませんが、漏れはないのでしょうか。家族が入れ替わり、何度も求められる説明に果たして医師が対処できますでしょうか。勤務医にとって極めて大きなストレスだと思いますがいい解決方法はないものでしょうか。

 

5、6年前、われわれの病院で医療事故が起こりました。下部胆管狭窄の女性患者さんに対してERCP 、乳頭拡張術の術中に起こったもので、操作により膵管を傷つけ急性膵炎を起こしました。CT検査で腹水が貯留し、重症膵炎の状態でした。患者さんのご家族の2人の息子さんたちは遠方にお住まいのため、検査の事前の説明は消化器内科医が患者さんご本人にのみ行っていました。ERCP,EPBDの手技や合併症を含めて詳しく図示しながら説明していましたが、息子さん達には伝達されていませんでした。事故の後、後腹膜ドレナージの必要性から若手の外科医も治療に加わりました。急遽息子さんたちに来院していただき、医師団から状況説明がなされましたが、ご家族からは強いご不満と厳しい指摘の声があがりました。病状は一進一退を繰り返し、一時はショック状態に陥りましたが、幸いにも一命を取り留めました。遠方から通ってこられるご家族には大変なご不自由とご負担をおかけいたしましたが、一方で、当院の医師も週末は家族説明のため、休日出勤を余儀なくされました。病棟看護師に対するご不満も多く、例えば「24時間看護のはずなのに、何時も母に看護師がついていない、だから痛みがとれていない」などたびたびお叱りを受けました。入院は10か月に及びましたが、無事に退院を迎えたスタッフは、患者さんに申し訳なく思うのと同時に、合併症を医療ミスと誤解されてしまった後では努力してもコミュニケーションはとれず、説明の大切さをいやというほど知らされました。スタッフも大変なストレスだったと思いますが、私にとって最もショックだったのは、それから暫くして治療にあたったその30代の前途有望な外科医が、燃え尽きてわが病院を辞めてしまった事でした。理事長に就任して4年、大きな試練の一つでした。

 



説明支援ナース

 

その患者さんが退院されたあと、病棟には疲労感と失望感が漂いましたが、この問題の解決策はなかなか見出すことができませんでした。しかし、意外なところからヒントを頂き、たどり着いたのがこの説明支援ナースでした。


3~4年前、小泉首相の背中を押していた経済財政諮問会議の方々が、「株式会社が病院を運営したらこんなことができる」としたリストに、「医療通訳者」があったのです。医療を部外者から見たら、病院外来の説明は不足しているし、専門用語だらけで難しいので、理解させるための有料サービスとして医療通訳者を提案していたのです。


すでに無料で取り組んでいる医療機関があることも知りました。福井県済生会病院の副院長先生の考案でしたが、外来でどうみても医師の言うことを理解できていない患者さんが少なくない。そういう場合には医師や看護師のオーダーで「メディカル・コーディネーター」を呼ぶことができる。メディカル・コーディネーターは患者さんと医師との中間よりやや患者さん寄りの立場で、病状と治療方針を説明し理解して頂く。そうすることによって、患者さんの不安がなくなり誤解が減れば病院にとって好ましいことになると話しておられました。


ただ、この話を聞いた医師の中には、「コーディネーターがそのケースに合わない不適切なことを説明したら、修正するのにかえって手間ひまがかかる」と敬遠される先生もおられました。これらを参考にして私が考えた説明支援ナースの骨子は以下の通りです。


外来の看護師さんの中から選抜して、医師の説明の一部を代行するナースを育成する。診察・診断はもちろん医師の役割で治療の必要性までを医師が説明した後、実際の手技に関して代行して説明する。対象はパスが作成できるような各科の一般的な検査や手術に限定してスタートする。説明はその範囲、程度にバラツキがあってはならないので医師が主導して検査・手術の説明用パンフレットを作成する。それを用い説明支援ナースがもらさず説明し理解を求める。パンフレットにはその手技のあらましを図解し、その手技の優れた点、平均的な経過、大まかな費用等とともに、重篤な合併症の種類と国内でのその発生頻度と当院の頻度、合併症が起こった場合の処置方法などのネガティブデータも明記する。さらには、勧めている手技以外に問題解決にどのような選択肢があるのかを挙げ、患者さんや家族に選択させ納得していただく。


われわれの病院では手始めに消化器科と泌尿器科がこの業務を始めました。消化器科では上部消化管内視鏡検査、大腸内視鏡、ポリペクトミーを、泌尿器科は腎盂造影、膀胱造影そしてウロストーマを選びました。種類は少なくても各々両科の基本的な検査であり、手技でありますので、対象となる患者さんは多く説明支援ナースのおかげで外来において担当医が節約できる時間の総量は大変なものになりました。また、そのパンフレットに書いてあることを説明し、承諾を得たことをカルテに明記してくれますので、「聞いてない」「承諾していない」など不毛の言い争いをすることから解放されますので医師も安心です。忙しい外来時間での何よりのストレス減らしの方法の一つと思われます。




説明支援ナース

 

一方、患者さんにとっても何でも質問できる雰囲気の中で、何度でも読み返せるパンフレットを用いての説明は価値の高いものになると考えます。自分がどういう病気で、何のためにその手技が必要で、どういう利点と欠点があるのか、合併症が起こった時にはどういう処置をしてくれるのか、そしてそのほかにどのような手技や方法があるのかを知った上で、自分で一つを選択できる、これこそ患者さんが求める知る権利に応える最良の方法の一つに違いありません。事実、われわれの病院でこの方法で説明をさせていただいた患者さんの評価と満足度はことの外高く、時間の節約とストレスの軽減の面から担当医からもよい評判を頂いております。お時間があれば、当サイト内理事長メッセージ、急性期医療編「ストレスからの解放」(動画)をご覧下さい。

 

碇医師
碇医師

説明支援ナースがいることで医師の業務の負担が大幅に軽減されストレスから解放されました。さらに外来での患者様にかける説明時間の短縮ができたことで病棟の患者様にかかわる時間が増えました。説明支援ナースの他、医療秘書の存在も欠かせません。

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とくに、手術の場合には家族の同意が欠かせません。高齢の患者さんのみの外来受診ではその日のうちの承諾書作成は無理な話です。DPC制度下の現在、緊急手術を除いて予定手術までには時間があります。医師に代わって説明支援ナースが家族と面会説明し、納得が得られた時点で医師を呼び承諾書を作成します。「遠方だし、仕事が忙しいから行けない」と答える家族の言葉はそのままカルテに説明支援ナースが記載します。合併症が起こった後で「大事な母をこんな目にあわせて」とおっしゃるなら、大事なお母さんの大きな手術の前に合併症が起こりうることは理解すべきだと思うからです。そんな場合も、メールでパンフレットを送ってさしあげるといいのかもしれません。メールでの応答の後、承諾書にサインが頂ければ問題は解決するものと思われます。


DPCが始まって、入院期間はさらに短くなりました。現在も一部には疾患定額制の導入もあり、日本版DRGの登場も時間の問題と思われます。患者さんにとって大きな問題である入院も、短い期間では患者さんと医療者とのコミュニケーションも淡白なもので終わりがちです。加えて、生活習慣病など繰り返しの入院が必要な疾患は増える一方です。一人の患者さんを、外来から病棟まで一貫して看て護る人間が必要なことは明らかです。看護師を外来、病棟と縦割りにしているのは病院の組織上の都合に原因があるわけで、決して患者さんの立場を考えてのものではありません。その分野のプロである説明支援ナースには外来で自ら説明し、理解を得た患者さんが、実際にどのような入院生活を送るのかを是非見ていただきたい。入院初日に顔を見せたら入院が初めてで不安な患者さんの気持ちもきっと落ち着くことでしょう。手術の前日も外来で与えた安心のおさらいをすることで患者さんは勇気づけられることでしょう。手術当日、翌日と患者さんがどのような状態で一日を過ごされているのか、自分が説明した内容とどう違うのか、いつ頃からどのように回復されて退院に近づいて行かれるのか、説明支援ナースにとって毎日が勉強になるはずです。毎日、短時間の訪室で構いません。病名は同じでも、患者さん一人ひとり異なる回復の様子、これを多数例経験することで外来での説明にも幅が出てくるものと考えます。きっと素晴らしいクリティカル・パスの立案者になってくれることでしょう。退院が近くなったら、次の外来受診のお約束をします。一貫して看て護る人にだけ、話してくれる入院生活で感じたこと、病院が改善すべきこと。ここに宝が隠されていることを病院管理者は知るべきです。


医療法人白十字会 理事長 富永 雅也

医師は多忙で目前の患者さんへの対応で手いっぱいです。医師はオールマイティですべての分野に真面目にかつ精力的にかかわってきた、これが日本の病院の姿だと思います。しかし、医師不足で医療崩壊(本当は病院崩壊)が叫ばれる昨今、看護師の力を信じ、権限を与え、任せることが解決策の一つだと考えています。形だけ、看護師の副院長を作って満足している病院には未来はありません。


われわれ独自の法人内認定制度の一つ、説明支援ナースの誕生のいきさつを書いて参りました。この試みはまだ新しく、未完成です。数多くの方々からご意見を頂戴できれば幸いです。

 

説明支援ナース
説明支援ナース

説明支援ナースの手を借りて患者様への治療方針の確認など行い、時間的・精神的な余裕を作りだすとともにより深いコミュニケーションが実現できます。平成26年6月現在、23名の説明支援ナースが法人内に在籍しており、年々資格取得にチャレンジする看護師も増えています。

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