在宅医養成の試み(その7)

北関東で18年前から在宅医療を展開しておられる先生たちが中心になって、ボランティアで、在宅医療を行うのに必要な臨床課題をコンパクトにまとめたテキストが2006年に発刊されました。財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団のおかげで希望者に無料配布されています。各論をみますと、摂食嚥下障害、高齢者の肺炎、褥瘡、排尿障害、経管栄養、在宅人工呼吸療法、パーキンソン病、認知症、在宅緩和ケアなどに対する対処法が、簡潔明瞭に各々2~4ページにまとめてあります。 その本は約150ページで構成されていますが、一度は大学の講義で見知ってきた知識も多く、医師国家試験の勉強量と比べるとはるかに少なく、週一回程度の定期的な座学で十分に学びとれるものであると思います。しかし、実技に関してはそうはいきません。褥瘡の治療は座学だけでは完結しませんし、PEGの交換は実技で行わなければ在宅医療の現場では役に立ちません。
幸いにも療養病棟には褥瘡やPEGの交換が必要な患者さんがたくさんおられ、それぞれの回診で、実技を体験するチャンスは山のようにあります。栄養評価もNST回診に同行していれば栄養処方は容易になります。療養病棟は在宅医療を学ぶ機会の宝庫だとお気づきになっていましたか?学ぶ機会はたくさんあっても、要はさせていないだけで、宝の持ち腐れだったのです。
もうひとつ、テキストだけでは学べない知識として、在宅医療に必要な多職種協働を学ぶ必要があります。在宅酸素療法はどこに申し込むのか、家族を支える在宅介護サービスやショートステイの手続きはどうするのか、訪問歯科や訪問リハの申請は、在宅ホスピスケアや訪問看護ステーションとの協働にはどうすればよいのか、理解してないと在宅医療は成り立ちません。

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         褥瘡治療                PEGの交換

在宅医養成の試み(その6)

私自身も、「動けない患者さんを病院に呼びつける」医療に近いことを福岡の病院で行っていました。その患者さんは慢性関節リウマチが主病の70歳代の女性の方で、胃潰瘍の治療を希望され拝見したのがきっかけで10年以上、主に外来で経過を追わせて頂いておりました。20年を超えるリウマチの既往があり、その症状はすでに固定化し、特有の変形を伴ってはいましたが、ご家族に恵まれ、何時も車椅子での受診をサポートして頂いていました。ご子息は救急隊の救命隊員で、お嫁さんは我々の病院の元看護師さんであり、細々とした日常生活の介助を受け、幸せな患者さんでした。息子さんは受診日に合わせて休暇をお取りになり、車椅子を押して近況を診察室で話してくれました。お嫁さんも看護師の視点でいろいろな相談をしていただきました。しかし、あるとき認知症が出現し、それをきっかけに徐々に全身状態が低下して参りました。通院は最早難しく、私は訪問診療をしていただけるある整形外科の診療所の先生に定期的な往診をお願い致しました。その後、一度だけ患者さんのお宅にお邪魔をしてみましたが、私の顔はおろかご家族の識別も難しい状態でした。入浴や栄養管理が大変だと聞きました。
それから数年たったある日、患者さんのご主人が相談にお見えになりました。家族で一生懸命支えてきたが、介護疲れと心労が重なり、燃え尽き状態に陥ってしまった。折からの不況もあり、金銭的にも支えられなくなった、とのこと。優しかったあのお嫁さんも家を出てしまったと聞きました。転院の必要のない慢性期病院を紹介してくれとのご要望に適した病院をご紹介しましたが、あの熱心だったご家族の心がバラバラになってしまったことに衝撃を受けました。
無理を押して通院を支えてくれたあの時期に、在宅医療のネットワークがあれば「動けない患者さんを病院に呼びつける」医療ではなく、「元気な医者が病気の患者のところに動く医療、往診医療」をお勧めできたのではないか、病院も汗をかいて在宅医療を支える行動を開始すべきではないかと感じたのです。

在宅医養成の試み(その5)

 先生は私が参加しているあるクローズドの研究会で昨年の秋に講演されました。実は私は急用ができて、講演会には参加できなかったのですが、後日そのレジメを拝見して、「是非お会いして教えていただきたい」とメールを出したところ、快くお迎え頂きました。
先生は整形外科医として某医科大学講師であり医局長であった時、ひょんなことから車椅子の障害者ら15名と北米旅行の添乗医師として出かけることになりました。彼らとの旅は先生の医師としての医療観を大きく変えることになりました。彼らは医師など信頼していなかったのです。「医者は、自分に都合のよい患者しかみない」という言葉に先生は衝撃を受けました。その経験から、動けない患者を病院に呼びつけるのではなく、元気な医者が病気の患者のところに動く医療、往診医療をやろうと決意したと、ある講演会で語っておられます。
18年前、北関東で当時の日本では非常に珍しい往診に力を入れる診療所として、内科医をパートナーとして開業されました。大変なご苦労があったようですが、虚弱高齢者の在宅ケア、癌の終末期ケア、重度認知症患者のケアなど訪問看護師や歯科医師、薬剤師そして何より家族を巻き込んで、生活の場をときに医療の場として人間の尊厳を守り、その人らしい生き方を支えておられます。レジメの在宅ホスピスケアの写真を拝見しますと、死期が迫っていても、とても幸せそうなまばゆいばかりの笑顔がそこにあり、患者さんからは勿論、家族からも絶大な信頼が得られていることがわかります。
心温まる在宅医療の現場を視察し、その先生と議論する場を設けようと思います。第1回目として、3/27(土)~28(日)を予定しています。航空運賃・新幹線、宿泊、等ご負担はありませんが、生活の場に大人数が押しかけるわけにはいきません。訪問診療1件に1人が限度ですので、ツアーの募集は、在宅医療を始めてみたいと興味をお持ちの勤務医の先生に限らせていただき、初回ですので3名の定員とさせていただきます。
詳しくは、http://www.tominaga-message.com/tour/index.html