医療における「なにが無駄か」を論じる前に、昨年末にBS朝日で紹介されたセルフメディケーションの概念を簡単にご紹介いたします。その番組は大手一般大衆製薬メーカーが、国民が自分の体調は自分で管理することの重要性を紹介し、市販薬を上手に使うと初期治療にいかに役立てるかを宣伝することを目的に構成されていました。例をあげると、風邪の初期症状で一般薬を服用し、安静に過ごしたために軽快した妻と比べ、薬も飲まず無理を押して風邪をこじらせ、結果的に医療機関を受診し、高い自己負担を支払わなければならなかった夫は、損をしたでしょう、というストーリーです。しかし、実際は個人負担は一般的に3割ですから、残りの7割は国家がと保険者が負担しているのです。
セルフメディケーションの重要性を、世界一医療費の高いアメリカで示したアッシュビル・プロジェクト報告は圧巻でした。ノースカロライナ州アッシュビル市役所では、慢性的な疾患は薬で治療可能で重症化が抑えられるという発想から、市の職員の薬代やカウンセリング料を市が負担する代わりに、慢性病を持つ職員は定期的に薬剤師のカウンセリングを受けることを義務付けていました。薬の服用状況や副作用のチェック、生活習慣の指導、血圧・体重等の基礎データの測定し、医師の定期診察に報告書を持参させるなど、病気を自身の問題と意識付けさせ、病気とうまく付き合うために身近なパートナーとして薬剤師を活用したのです。カウンセリングで異常に気づいた場合、医師へ処方の変更を希望するカウンセリングメモを渡すこともできるそうです。その取り組みの結果、病気の重症化や手術などを必要とする重度の合併症の頻度は激減し、市の支払う医療費補助は驚くほど低減したと紹介されました。また、病気の重度化に伴う職員の欠勤を補充するための費用も以前とは比べられないほどに減ったそうです。病気を自分の克服すべき問題と自覚させることの重要性を示しています。この結果を受け、全米50州のうち44州で医師と薬剤師の協働が法律で認められ、セルフメディケーションが速いスピードで広がっているそうです。
最近の日本、何かおかしくないですか?(その19)
ある日の朝刊に歯科の受診抑制が顕著であるとのコラムが載っていました。国民の過半数が歯科受診時における医療費の支払額が高すぎると感じているそうです。そして、保険適応の範囲の拡大を望んでいるとありました。歯科を受診した場合、保険適応の範囲が限られているために、支払いが心配でつい受診を控えてしまう人が多いそうです。う歯(虫歯)や歯周病は自然治癒力が弱いために、放っておくと病状が進行し、大きな負担となってしまうケースが少なからずみられると書いてありました。
国立社会保障・人口問題研究所の阿部 彩部長は最近、雑誌にこう報告されています。
「国民皆保険が達成されてから、今年で50年となる。すべての国民が医療サービスを受けられるようにという願いの下に設計された国民健康保険制度(以下、国保)であるが、成立から半世紀たった今、皮肉にも国民皆保険は瀕死の危機にある。国民の約4割は国保に加入しているが、その保険料の滞納率は20.8%(2009年6月)。なんと加入している5世帯に約1世帯が保険料を払えない状況にあるのである。滞納を続けると交付される被保険者資格証明書(実質的な窓口負担が100%となる)の交付数は、約31万世帯にもなる。保険証さえも持てない人が増えているのである。問題は、保険証を持てない人のみではない。たとえ、保険証を持っていたとしても、自己負担が払えないという理由で受診を控える可能性は十分に考えられる。-後略-」と、負担の格差是正を主張されています。
本年3月3日の朝刊に受診遅れのために、命を落とす人が増加しているとの報道がありました。全日本民主医療機関連合会の調べでは、前年の47人が2010年には71人が受診遅れのために死亡したとしています。癌や糖尿病で亡くなった人が多く、高額な治療費を心配して病院に行くのをためらったためと分析しています。もはや国民皆保険制度は崩壊しているようです。