歴史というものは要するに、年表とかを覚えることではないんですよ。歴史というものは人間がつくるもんですから、つまり、人間を知るため、言い方はおかしいんですが、人間をよくわかるためには、歴史が一番いいんです。私はよく言うんですが、つまり、歴史をやるということは人間学だ、と。歴史学ではなく人間学だと思って見れば、人間というものはいかに、こういう危機のときに周章狼狽して判断を間違うか、自分の命が惜しいばかりに、いかに卑劣なことをするか、そういうことが歴史にたくさん事例があるわけです。それは、昭和史だけでなく、歴史が全部そうなんです。それを学ぶ、それを知るということは、ものすごく日本の将来のためにいいことだと思うんです。とくに昭和史を学ぶことは、いまの日本人をいっそうよく知ることになります。私もいい歳になりましたけど、まだわからないことがたくさんあるんですよ。だから、戸高さんみたいな若い人に託さなければならないことが、ずいぶんあるかと思うんです。やはり、歴史は連続しているものだし、そのなかにとてもよく人間の本質が出ているものですから、多くの人は知ったほうがいいと思います。そのためにも、イデオロギーにとらわれないできるだけ公平な歴史、公正な歴史というものを残しておいたほうがいいな、と思っていまもやっています(半藤一利氏)。
「日本海軍はなぜ過ったか 海軍反省会四百時間の証言より」が教えてくれること(その24 歴史を学ぶということ)
これは、戦後の教育が悪かったんです。ひと言でいえば、歴史教育をしなくなった。正確に言えば、昭和20年12月31日にGHQからの指令で、歴史と地理と修身の授業を廃止しろということになった。それで、授業廃止が決定するまで、それからは細々と教えるために教科書に墨塗りをしました。そういった戦後教育の始まりから60年経ってまだ、日本の近代史をきちんと教えるということができていない。だから、反省会のようなものがテレビで放送されると、「えーっ」という感じで見るんじゃないですか?「学校で近代史を教えろ、昭和史は大事だから教えろ」という声は出ます。私なども「ご意見はいかがですか」と聞かれますが、その通りだと思う。ただし、できません。なぜなら、教える先生がいない。この理由の一つには、戦後の日本の占領期間が六年あった。これが長すぎましたね(半藤一利氏)。
でも、そういうことを知りたいという渇望がある。いまはそういう時勢なんですよ。考えてみたら、戦争はダメとか、憲法はどうだとか、世の中ではいろいろ言っているけれど、しかし自分は何も知らないなと思っている30代、40代の人たちが最近、いるのではないですか、知らないことに気づくのは、私はとてもいいことだと思います(澤地久枝氏)。(中略)
これは、歴史の教育というと大袈裟ですが、誰も知らなかったところにこの反省会の情報が提示されたことにインパクトがあったと思いますね。歴史というものは、私たちは普通は古代から時系列に沿って流れているという感覚ですけれど、私は少し違うと思うんです。歴史の何が大切かというと、過去の歴史が、いまの自分、いまの社会にどう影響しているか、それを知ることだと思うのです。ですから、一番近い現在からさかのぼって、なぜ、現在の状態になっているのか、の答えを、過去の事実の中に探すのが歴史研究だと思います(戸高一成氏)。