「説明は横文字ばかりで理解できなかった・・・群馬大学第二外科報道より」その8

群馬大学病院の外科の体制は第一外科と第二外科があり、それぞれに消化器外科、呼吸器外科、乳腺・内分泌外科などのチームがありますが、手術のやり方一つを見てもやり方が違い情報も共有されていませんでした。私自身も同じ経験を致しましたが、同じジャンルの研究チームであっても大学病院の中で科が違えば、所在地は同じなのにまるで地球の裏のように“遠い”存在になるのです。
野島病院長は記者会見で「閉鎖的な診療体制だった。外の専門化の意見にさらされず、診療の振り返りがなされなかった」と8人全員の診療で「過失があった」とした原因を振り返っています。手術をした第二外科で肝臓の担当医は2人だけで、診療のほとんどが問題の男性医師に任されていました。週1回は第二外科内で症例報告会議が行われましたが、個別症例毎の深い議論はなく、肝臓担当の2人の医師以外の同僚は意見を言うこともなかったようです。まさに、具英成教授が指摘されるように手術能力の評価や手術成績の検証などチェック体制がずさんだったと言わざるを得ません。このような閉鎖的な体制の中、死者が続発したということになります。
群馬大学病院のこの事件に対する最終報告書が公表された3月3日、腹腔鏡手術を受け死亡した患者の遺族の女性は、「亡くなった人はもう帰ってこない。でもとにかく真実が知りたい」と述べています。病院による調査報告の説明は受けたが、今も「どうしてこんなことに?」という疑問は消えず、「病院の一方的な話だけでは納得できない」と、なぜ男性医師が十分な検証も受けずに腹腔鏡手術を続けたのかについては触れてなく、「これは最終報告とは言えない」と感想を述べています。
野島病院長は「なぜもっと早く問題を把握して、対応できなかったのか。それが最大の問題だった」と沈痛な面持ちで振り返っていました。
群馬大学第二外科のホームページを見てみました。入院生活の部分のB)クリニカルパスには、次のような記載があります。
「入院中も患者さんに不安がないようにクリニカルパスとそれをサポートする冊子等を用いて、手術、退院までの一連の流れを説明し、医療スタッフと知識を共有し、不安を軽減できるような体制で診療を進めております。」

「説明は横文字ばかりで理解できなかった・・・群馬大学第二外科報道より」その7

再び群馬大学第二外科の話に戻ります。
群馬大学病院は2015年3月3日、腹腔鏡による肝臓手術で患者8人が相次いで死亡した件に関して記者会見を開き、8人全員の診療で「過失があった」とする最終報告書を公表しました。発表によりますと、問題になっているのは2010年9月に胆管細胞がんと診断され胆管や肝臓を切除する手術を受けた後、容態が急変して3日目に死亡した患者さんですが、死亡から10日後、切除した肝臓の病理検査で癌ではなく良性のできものであったことが確認されました。しかし、この40代の執刀医はこのことを遺族に報告しませんでした。そればかりか、同年11月に自ら作成した診断書には「胆管細胞癌」と当初の診断名を記載しました。このとき既に癌ではないと病理学的に判明していたため、虚偽の病名を記載していたことになります。これを受け、病院は3月2日より第二外科教授の診療科長としての業務を停止し、執刀医については「医師の適格性に問題がある」として一切の診療行為を停止しました。
肝臓の腹腔鏡手術を手がけている別の病院の外科医によると、「手術後に出血や胆汁の漏れがあった例が多い。技術的に問題があるとしか考えられない」と語っています。そして、「患者が亡くなっているのに検証もせず、同様の手術を繰り返すとは極めて異常な事態。腹腔鏡手術の実績を作りたかったのではないかと疑いを持った」としています。実際、執刀医は精力的に学会活動を続け、昨年4月には日本外科学会にて自らの手術成績を「おおむね良好な結果」と発表しているのです。
肝胆膵手術が専門の神戸大学の具英成教授は、「これほど深刻な事態に至ったのは、診療科内で、手術能力の評価や手術成績の検証などチェック体制がずさんだったためではないか」としています。