このシリーズは二度と手に入らない教科書である太平洋戦争の主役の一人を演じ、極めて優秀な頭脳集団とされた日本海軍がその戦力の中核である艦艇のほぼすべてを失って、事実上全滅した数々の要因をその時の指揮官らの行動から日本人がもっている思考遺伝子を明らかにしたいと思って始めました。その1~その4では、なぜ昭和史を学ばなければならないか、そして歴史が何を伝えてくれるのか、いわばシリーズの結論からスタートしました。
海軍反省会の400時間のテープをひたすら聞き続け、この本の編集・出版にあたった方々が会得したものは、現代への教訓でした。
私たちが注目したのは、当時の海軍士官の多くは「実は戦争には反対であり」「戦えば必ず負ける」と考えていたにもかかわらず、」組織の中に入るとそれが大きな声にならずに戦争がはじまり、間違っていると分かっている作戦も、誰も反対せずに終戦まで続けられていった、という実態である。そこには日本海軍という組織が持っていた体質、「縦割りのセクショナリズム」「問題を隠ぺいする体質」「ムードに流され意見を言えない空気」「責任の曖昧さ」があった。それは現在危機が進行中の、東京電力福島第一原子力発電所事故への関係機関の対応に見られるように、そのまま現代日本の組織が抱える問題や犯している罪でもあった。(藤木達弘氏)