当法人理事長富永雅也のブログが長崎新聞増刊号にコラム掲載となりました。ぜひご覧ください。
病気を進行させない医療④
患者さんの病気を進行させないためこれまで紹介してきたような努力を大きく阻害するかもしれない疾患が近年、激増しています。「認知症」です。疫学研究で世界的に有名な九州大学第2内科の久山町研究によると、アルツハイマー型認知症患者さんが急増して2040年ごろの日本では1千万人に達し、ほぼ10人に1人が認知症に罹患(りかん)する恐れがあるとしています。医療・介護費用は激増し、国力を削いでいくのは明らかです。
「久山町研究」とは日本が世界に誇る疫学研究のことです。
福岡県の福岡市東部に接する人口8400人程度の小さな町、久山町の住民の健康状態について、九州大学の第二内科が中心となって1961年以来、ほぼ全住民の健康管理を続けています。この疫学研究(久山町研究)と臨床研究の成果を活用し、生活習慣病(脳卒中・虚血性心疾患、悪性腫瘍・認知症など)の予防と治療法の開発を通じて国民の健康福祉の推進に貢献する役割を担っています。町ぐるみの協力で、久山町の健診受診率・剖検率・追跡率は世界のトップレベルです。
認知症とは記銘力障害によって日常生活・社会生活に著しい障害をきたす状態をいいます。しかし、いきなり病状が進むことはむしろ少なく、軽度の認知機能の低下がみられ、物忘れは目立つものの会話は普通にでき、日常生活には支障がない軽度認知障害(MCI)の状態を経るのが普通です。
軽度認知障害(MCI)の代表的症状は?
同じことを何度も繰り返して言ったりする。
ついこの前会ったばかりの人に「久しぶりですね」と 声を掛ける。
同じものをたくさん買い込んでしまう。
物の置き場所がわからなくなる。
鍋を焦がしたりしてしまう。
物忘れは目立つものの、会話は普通にできて日常 生活には支障がない。
この状態がみられた場合、早期に担当の地域包括支援センターまたは認知症専門診療機関にご相談ください。MCIから認知症に至るまでには脳の萎縮や脳血流低下がない良性MCIの時期があり、この時期に適切な治療を加えれば健常状態に戻る可能性があります。
<国立長寿医療研究センター 認知症予防へ向けた運動「コグニサイズ」はこちらをご覧ください。>
国立長寿医療研究センターの鈴木隆雄先生によると、MCI高齢者を2群に分け、有酸素運動を行いながら計算やしりとりなど頭を使って脳を刺激する運動(2重課題運動)を6か月間続行した群と、健康講座を受け続けた群を比較すると、前者に有意に脳の萎縮防止効果、記憶力の改善効果を認めたと報告しています。
そこで白十字会では、地域の公民館などサロンに高齢者が自主的に集い、認知症予防、閉じこもり防止、仲間づくり、生きがいづくりをするお手伝いをさせていただこうと考えています。有酸素運動をしながら脳を刺激する認知症予防を目的とした楽しい運動(コグニサイズ)を指導するインストラクターを派遣する計画を準備中です。
「コグニサイズ」とは認知症予防を目的とした取り組みの総称です。
コグニサイズとは、国立長寿医療研究センターが開発した運動と認知課題(計算、しりとりなど)を組み合わせた、認知症予防を目的とした取り組みの総称を表した造語です。英語のcognition (認知) とexercise (運動) を組み合わせてcognicise(コグニサイズ)と言います。Cognitionは脳に認知的な負荷がかかるような各種の認知課題が該当し、Exerciseは各種の運動課題が該当します。運動の種類によってコグニステップ、コグニダンス、コグニウォーキング、コグニバイクなど、多様な類似語があります。コグニサイズは、これらを含んだ総称としています。
世界一の超高齢である日本人は、もう国に頼り過ぎず、自助・互助で乗り切らないと国の財政がもたないと思うからです。ただ、当法人の力だけでは限界があります。地域を支えるインストラクターを目指していただける方、共に市民のために立ち上がりませんか。
白十字会で実施している「病気を悪化させない」医療の2つの取り組みをご紹介します。
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