お勉強はもう苦痛ではないですか? -慢性期医療へのお誘い- (その3)

 スキルアップのために出身母教室に一定期間戻って、医局員と同じ生活をする。これが私の考えた方法でした。骨子はこうです。一年に一か月間、二年おきなら二か月間、出身教室にスキルアップのために戻って勉強できる権利を医長、部長の先生に与える。その期間は大学で医局員と同じく、朝から抄読会、回診、手術や検査をこなし、教室も臨時戦力としてその医師を当てにする。その間、新しい術式や知識を夜遅くまで一医局員として研鑽する。給与は派遣病院が支払い、その期間は派遣先の同僚が派遣病院の入院患者をカバーする。母教室に戻った先生は医局員と同じようにアルバイト日を有するが、その日は派遣病院で自分の外来患者を診察する。

 派遣病院にとっては一定期間入院主治医が薄くなりますが、新たに得たスキルでの新患増加及び大学からの紹介の増加によるメリットは大きいと思われます。若手医師との情報共有、学会への参加は医師の“現役年齢”の延長に役立つはずです。派遣病院は医師のスキルアップがあればその地域でのイニシアチィブを維持できるので、集客力が増します。大学医局にとっても一年で12人の経験を積んだ医師を迎え入れ、12の出張病院に感謝されます。加えて、診療スキルの低下で将来が見えず開業してしまう恐れのある教室医師を繋ぎ止めることができます。

 私は、実際にわたし共の病院に多数の医師を派遣して頂いている教授に、派遣の先生方の了解を取った上で、この話の説明に上がりましたが、残念ながら教授は理解していただけませんでした。もう10年ほど前のことですが、大学での教育は学生と研修医、そして若い医局員が対象で、長期出張医師やOBは眼中にないかのようなお答えでした。私は専門領域の複線型能力貯蓄の場つまり再教育はよそいきではなく自然に学べる出身医局がベストと考え、数年前にも別の教授にお願いに参りましたが、やはり良い返事は頂けませんでした。

 他にも、短期集中講座などスキルアップの方法はあろうかと考えますが、どこかでどなたかの手でこの方法が日の目を見ないかなと期待してこのブログに載せます。

お勉強はもう苦痛ではないですか? -慢性期医療へのお誘い- (その2)

現代社会研究所所長の古田隆彦先生によれば、現在65歳以上を高齢者と呼んでいるのは1960年代に国連勧告を受けてそう定義したのだそうです。当時の平均年齢は約70歳、現在は80歳をはるかに超えていますので、75歳以上を高齢者と呼ぶべきであると提唱されています。そうすると現役として働く期間は50年にも及びます。その50年を乗り切るために複線型の教育、つまり一定期間新たなスキルを身につける能力貯蓄の機会が必要になると述べておられます。
  医師も同じです。多くの病院は60歳や65歳が定年ですが、現在の60歳はまだまだ働き盛りで、70歳やそれ以上まで働きたいと思われておられる方が過半数だと思います。そうすると40~50年間通用する技術が欠かせません。私自身や周りの先生方をその眼で観察した経験でいえば、大学や研修医療機関で一定期間勉強して積み上げてきたスキルはその補てんがなければその同じ年数しか本当の意味では役に立ちません。能力貯蓄の機会がないまま派遣病院で忙しさにかまけていると、やがて学会に足が遠くなって参ります。そのうちに学会では、詳しくない得意でない分野が多くなり、そしてその道の専門家が主流派を形成するようになると、学会はさらにつまらなくなり、専門医であり得意分野であるはずの領域に、ぽっかりと穴があいてしまいます。独学ではそれを埋める意欲は次第に低下し、大学の現役医師と意思疎通がうまくいかなくなって参ります。どうしたらいいのでしょうか。