私は九州大学第二内科(現九州大学大学院病態機能内科学)入局後、消化器研究室に入り、専門医としての研鑽を積んで参りました。厳しい先輩方のご指導のお陰でかなり早期の癌を診断できるようになった頃、もう20年前のお話ですが、ある基幹病院へ赴任してすぐのころ、ショッキングな経験を致しました。外科に紹介した直腸早期癌の患者さんの術後報告書を見たときです。なんと直腸切断・人工肛門造設術が施行してありました。その患者さんの癌腫の肛門側は肛門輪から約5cmの距離があり、ぎりぎり肛門を温存する術式が期待できるとご本人に説明していたからです。しかも、旧式の人工肛門が造ってあり、患者さんの気持ちを想うと暗澹たる気持ちになりました。
その後職員に聞いた話によると、その病院の3人の外科部長の先生方には最新の手術術式は期待できず、QOLの低い旧式の術式しかご存じなかったのです。皆さん50歳代の前半なのに、肩書とは裏腹に陽のあたるお仕事はされていませんでした。聞けば、一昔前は威勢のいいバリバリの外科医だったとのこと。
20年という時が経過した今も、同じような光景がみられるのではないでしょうか。ましてや、今だに年功序列の自治体病院では、仕事量に見合わない給与差に若手の医師の不満も大きいのではないでしょうか。どうしてこういうことが起こるのでしょうか。
答えはひとつの技術で一生食べていける時代ではなくなったのだと思います。3人の外科部長さんの場合では、新しい技術の研鑽を40歳代になさっていればバリバリの現役外科医で過ごせたのではないでしょうか。責任はそれをせずに放置した病院とご本人双方にあると思います
。