在宅医養成の試み(その12)

 「在宅療養」編集委員会が監修された「在宅療養」をささえるすべての人へ-わが家がいちばん-(健康と良い友だち社発行)という本を頂きました。その巻頭文や紹介してある「体験者の声」は非常に参考になる内容だと思いますのでご紹介いたします。
 「はじめに」より(前略)
 一度「在宅医療」を選んだら、「病院に戻れなくなるのでは?」と心配する声も多く聞きます。病状が悪くなるとともに介護の負担が大きくなり、家族が疲れはててしまうこともあります。そんなときは、いったん病院に戻り、状態が落ち着いてきたら、また自宅へ戻るということもできます。
 一方で「在宅医療」に対する誤解もあります。
病院から見放された人がたどり着くのが「在宅医療」だと思っていたり、病人の世話で明け暮れるものだと思っていたり、一人暮らしで介護してくれる人がいないから「在宅医療」はできないと決めつけている人もいます。
 なかには「在宅医療」の存在を知らないために余儀なく別の選択をして、あとで後悔する人もいます。また、「在宅医療」への理解が不十分な医療従事者もまだまだ多く、ただ退院を指示するケースも少なくありません。適切なアドバイスをもらえず、退院後の生活をどうしてよいのかわからなくて、途方にくれている人もいます。
(後略)
 現在、日本人の大多数が自分自身の最期について考えたとき、「自宅で家族に看とられたい」あるいは「意識もないのに生かされ続けるのはごめんだ」と思っているのに、「家族に迷惑がかかるから」という思いで断念しているのはとても残念なことだと思います。

在宅医養成の試み(その11)

5月16日(日)、私は東京国際フォーラムにて行われたクリニック開業支援セミナーでの特別講演を頼まれ上京しました。M3.comの会員さんに限定の講演会と聞いていましたが、正直私は東京では開業はもう難しく、支援の講演会を開いても勤務医の先生は集まらないと思っていました。事実、別の階では他の業者の主催する開業支援の講演会が開かれていましたが、参加の先生は極めて少数という報告でした。私は「在宅医療は開業・医業継承の新たな選択肢となりえるか-これからの開業に必要なスキルアップのために-」というタイトルでこのブログで書いてきたことを中心に約50分間話をしました。大学医局の方針で我々は専門医に仕上げられてきたこと、従ってその守備範囲は狭く開業後に求められるかかりつけ医としての勉強はそれぞれの責任とされていること、それを学んでも開業する適地は都市部にはもはやないこと。その一方で政府が推奨している訪問診療・在宅医療を推進する担い手が医師・看護師共に少なく、訪問診療・在宅医療は件数も費用も伸び悩んでいること、その要因にはそのスキルを学べる施設があまりにも少ないことを述べました。そして、学ぶ機会は療養病棟にいくらでもあること、それを系統的・継続的にプログラム化し、さらに失敗事例を入れた講義形式はスキルを短期間で学び取れるものであること、さらにスキルアップのためのPEG交換回診、褥瘡回診や市内で行われている多職種協働に参加することが早道であることを示しました。また、訪問診療は患者さんご本人ばかりでなく、家族に大変感謝され、頼りになる先生として地域に必要とされる診療所として認知される要素になることを説明いたしました。そして在宅現場の理解のために白十字版短期国内留学を用意していることを付け加え、燿光リハビリテーション病院で2年間のコースを用意し募集をしていると伝えました。最後に、この在宅医療の現場は患者さんの自宅ばかりではなく、有料老人ホームや高齢者住宅など現在は手つかずの状態で、まさに“早いもの勝ち”の状況にあることを示すと、会場の約50人の先生方はぐっと身を乗りだされ反応の良さを感じました。私たちとしても早くこのプログラムを開始したいと考え、燿光リハビリテーション病院の研修コースは初年度に限り“早いもの勝ち”で1年間の短期コースも募集しようかと考えるに至りました。

在宅医養成の試み(その10)

3月下旬、日本医師会主催で北関東の在宅医療のパイオニアとしてこのブログに登場していただいた先生方による「在宅医療支援のための研修会」に参加しました。その先生によると、在宅医として患者さんのお宅におじゃまするときには、大切な心得があるとのことでした。チャイムをせかすように鳴らすことは患者さんや家族がすぐに出られない状況にあることもあり好ましくない。他人に見られたくない部屋もあることを忘れてはいけないし、居室では病院と違って低い位置の姿勢でいることが肝要であると講演されました。診察や検査の進め方など知識はあっても実際に、在宅の場にうまく入り込み、手際よく診療が進められるかがポイントです。
私がお目にかかった北関東の先生に、初対面なのに厚かましくも在宅医療を志す若手の先生がたに在宅医の心得と手際を学ぶために短期間の国内留学をお願いしておりました。在宅医療の担い手を増やしたいとお考えの先生で快諾していただき、わたし共の法人から一人につき3か月程度の国内留学を受け入れていただくこととなりました。そこで行われている多職種協働はまさに“目から鱗”、座学では学べない貴重な経験をされることと思います。私も在宅医療の意義を理解するには在宅医養成コースの2年間の前半に優れた在宅医療の現場に国内留学することが早道であると考えていました。まずは、在宅医療が患者さんご本人にとって、家族にとって、かけがえのない大切なものであることを理解し、それを自らリードするためにどうスタッフを動かせばよいのか、これを体感すればあとの21か月はより有意義になると考えたのです。
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 訪問リハビリテーション                    NST回診

在宅医養成の試み(その9)

わたしどもの病院としても在宅医養成の必要性を感じておりました。DPCではますます在院日数の短縮が求められ、回復期リハ病棟も療養日数制限があります。ともに在宅医を司令塔とする訪問チームの存在があれば患者さんは安心して自宅復帰ができます。最後の療養場所として「自宅で最期を迎えたい」末期癌患者さんの希望を叶え、家族と過ごす時間の確保や病室では出来ない趣味や日常生活の楽しみを可能にするには在宅医との密なネットワークが必要になります。しかし、前述のように在宅医の活躍の機会は増えていませんし、看取りの数の増加も見られません。それならば、法人として在宅医を養成し、地域で開業していただき、病院と深い信頼関係で結ばれる地域連携を目指したいと考えるに至りました。
そこで今回、燿光リハビリテーション病院に3名、白十字病院に2名の在宅医養成枠を設けました。お一人2年間の期限で働きながら、多職種協働を学べるコースです。そのコースの特徴は、
①前述の勇美記念財団による「在宅医療テキスト」を用い、講師による解説と抄読を主体とする週一回程度の定期的な座学、
②褥瘡やPEGの交換回診への参加、栄養処方の実施などの実習、
③在宅医療に必要な多職種協働を学ぶための協働
これらを無理なくプログラムして、基本的に回復期リハビリ病棟でご勤務頂きながら開業後の自分のために必要な知識を学びとっていただくものです。
③は佐世保に本拠を置く法人としては、佐世保での行動を見ていただく必要がありますので燿光リハビリテーション病院でのご勤務のほうが利便性は高いと思います。
ただ、一つだけ懸念がありました。もし私だったらそれらの知識を習得したとしても、すんなりと在宅の道へ入りこめるだろうかと。在宅で迎えてくれる患者さんや家族にどのような声かけをすればうまく診療が進むのでしょうか。

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     ケアマネージャー         訪問看護ステーションスタッフ

在宅医養成の試み(その8)

   多職種協働を学ぶには訪問看護ステーション、緩和ケアチーム、在宅介護チーム、訪問リハビリチーム、そしてそれらのチームを統制する在宅医、補佐する多くのケアマネージャーを配し、運営している法人組織にて、それぞれのカンファランスに参加し、時に行動を共にすることが、その理解への早道です。
  われわれ白十字会は佐世保地区においてこれらの在宅チームを運営しています。7名の訪問看護師は主治医の指示のもと、血圧や血糖値、PEG、ストーマ、褥瘡、在宅酸素等の医療的管理を行っています。緩和ケアチームは疼痛コントロール、リンパマッサージ等のきめ細やかなサービスを主治医との緊密な報告、連携のもと24時間体制で実施しています。                   
  身体上、家屋立地上の問題等で病院やデイケアに通ってのリハビリが困難な脳血管疾患後や廃用症候群の要介護3~5の患者さんには、訪問リハビリチームが実際の生活の中で使用している椅子やベッド、トイレ、廊下等を活用してより日常性動作に即した効果的なリハビリを目指して取り組んでいます。また、生活援助や身体的介護を在宅にて支援する訪問介護チーム、そして寝たきりや車椅子等の状態の在宅患者さんをご自宅に訪問し、移動入浴槽を用い安全で快適な入浴を実現し、心身の活性化と身体面の清潔保持を図る訪問入浴サービスチームがそれぞれ活動しています。
  そしてこれらのサービスを効果的、効率的にプランニングし、利用者、家族及び主治医に報告、連絡調整を行う大切な役割を担っているのがケアマネージャーを有する居宅介護支援事業所です。我々法人内の4箇所の事業所にて現在32名のケアマネージャーが在宅生活をサポートしています。
在宅サービスは相互理解に基づいたチームケアが最も重要です。是非、その仕組みを体験し、理解して頂きたいと考えています。

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 認定看護師による在宅緩和ケア                 在宅酸素療法

在宅医養成の試み(その7)

北関東で18年前から在宅医療を展開しておられる先生たちが中心になって、ボランティアで、在宅医療を行うのに必要な臨床課題をコンパクトにまとめたテキストが2006年に発刊されました。財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団のおかげで希望者に無料配布されています。各論をみますと、摂食嚥下障害、高齢者の肺炎、褥瘡、排尿障害、経管栄養、在宅人工呼吸療法、パーキンソン病、認知症、在宅緩和ケアなどに対する対処法が、簡潔明瞭に各々2~4ページにまとめてあります。 その本は約150ページで構成されていますが、一度は大学の講義で見知ってきた知識も多く、医師国家試験の勉強量と比べるとはるかに少なく、週一回程度の定期的な座学で十分に学びとれるものであると思います。しかし、実技に関してはそうはいきません。褥瘡の治療は座学だけでは完結しませんし、PEGの交換は実技で行わなければ在宅医療の現場では役に立ちません。
幸いにも療養病棟には褥瘡やPEGの交換が必要な患者さんがたくさんおられ、それぞれの回診で、実技を体験するチャンスは山のようにあります。栄養評価もNST回診に同行していれば栄養処方は容易になります。療養病棟は在宅医療を学ぶ機会の宝庫だとお気づきになっていましたか?学ぶ機会はたくさんあっても、要はさせていないだけで、宝の持ち腐れだったのです。
もうひとつ、テキストだけでは学べない知識として、在宅医療に必要な多職種協働を学ぶ必要があります。在宅酸素療法はどこに申し込むのか、家族を支える在宅介護サービスやショートステイの手続きはどうするのか、訪問歯科や訪問リハの申請は、在宅ホスピスケアや訪問看護ステーションとの協働にはどうすればよいのか、理解してないと在宅医療は成り立ちません。

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         褥瘡治療                PEGの交換

在宅医養成の試み(その6)

私自身も、「動けない患者さんを病院に呼びつける」医療に近いことを福岡の病院で行っていました。その患者さんは慢性関節リウマチが主病の70歳代の女性の方で、胃潰瘍の治療を希望され拝見したのがきっかけで10年以上、主に外来で経過を追わせて頂いておりました。20年を超えるリウマチの既往があり、その症状はすでに固定化し、特有の変形を伴ってはいましたが、ご家族に恵まれ、何時も車椅子での受診をサポートして頂いていました。ご子息は救急隊の救命隊員で、お嫁さんは我々の病院の元看護師さんであり、細々とした日常生活の介助を受け、幸せな患者さんでした。息子さんは受診日に合わせて休暇をお取りになり、車椅子を押して近況を診察室で話してくれました。お嫁さんも看護師の視点でいろいろな相談をしていただきました。しかし、あるとき認知症が出現し、それをきっかけに徐々に全身状態が低下して参りました。通院は最早難しく、私は訪問診療をしていただけるある整形外科の診療所の先生に定期的な往診をお願い致しました。その後、一度だけ患者さんのお宅にお邪魔をしてみましたが、私の顔はおろかご家族の識別も難しい状態でした。入浴や栄養管理が大変だと聞きました。
それから数年たったある日、患者さんのご主人が相談にお見えになりました。家族で一生懸命支えてきたが、介護疲れと心労が重なり、燃え尽き状態に陥ってしまった。折からの不況もあり、金銭的にも支えられなくなった、とのこと。優しかったあのお嫁さんも家を出てしまったと聞きました。転院の必要のない慢性期病院を紹介してくれとのご要望に適した病院をご紹介しましたが、あの熱心だったご家族の心がバラバラになってしまったことに衝撃を受けました。
無理を押して通院を支えてくれたあの時期に、在宅医療のネットワークがあれば「動けない患者さんを病院に呼びつける」医療ではなく、「元気な医者が病気の患者のところに動く医療、往診医療」をお勧めできたのではないか、病院も汗をかいて在宅医療を支える行動を開始すべきではないかと感じたのです。

在宅医養成の試み(その5)

 先生は私が参加しているあるクローズドの研究会で昨年の秋に講演されました。実は私は急用ができて、講演会には参加できなかったのですが、後日そのレジメを拝見して、「是非お会いして教えていただきたい」とメールを出したところ、快くお迎え頂きました。
先生は整形外科医として某医科大学講師であり医局長であった時、ひょんなことから車椅子の障害者ら15名と北米旅行の添乗医師として出かけることになりました。彼らとの旅は先生の医師としての医療観を大きく変えることになりました。彼らは医師など信頼していなかったのです。「医者は、自分に都合のよい患者しかみない」という言葉に先生は衝撃を受けました。その経験から、動けない患者を病院に呼びつけるのではなく、元気な医者が病気の患者のところに動く医療、往診医療をやろうと決意したと、ある講演会で語っておられます。
18年前、北関東で当時の日本では非常に珍しい往診に力を入れる診療所として、内科医をパートナーとして開業されました。大変なご苦労があったようですが、虚弱高齢者の在宅ケア、癌の終末期ケア、重度認知症患者のケアなど訪問看護師や歯科医師、薬剤師そして何より家族を巻き込んで、生活の場をときに医療の場として人間の尊厳を守り、その人らしい生き方を支えておられます。レジメの在宅ホスピスケアの写真を拝見しますと、死期が迫っていても、とても幸せそうなまばゆいばかりの笑顔がそこにあり、患者さんからは勿論、家族からも絶大な信頼が得られていることがわかります。
心温まる在宅医療の現場を視察し、その先生と議論する場を設けようと思います。第1回目として、3/27(土)~28(日)を予定しています。航空運賃・新幹線、宿泊、等ご負担はありませんが、生活の場に大人数が押しかけるわけにはいきません。訪問診療1件に1人が限度ですので、ツアーの募集は、在宅医療を始めてみたいと興味をお持ちの勤務医の先生に限らせていただき、初回ですので3名の定員とさせていただきます。
詳しくは、http://www.tominaga-message.com/tour/index.html

在宅医養成の試み(その4)

訪問診療を実際にやっておられる先生方に在宅医療の現状をお聞きすると、必ずしも全てがうまくいってはいないようでした。自分はこの分野は知識に乏しく対応できないとか、どこでサービスの申し込みをしていいのか分からない、24時間365日対応可能な体力的な自信がなく在宅療養支援診療所の看板は出せないという悩みでした。2~3人のDrで連携して在宅のニーズに対応しようとされている先生が多いのですが、Drだけではすべての分野を365日カバーできません。訪問看護ステーションやケアマネージャー、訪問歯科、訪問薬剤師そして様々な行政サービスとの多職種協働が不可欠なのですが、それをどう組み立てるのか教えてくれるところがないのが実情です。医学部、大学病院にも、勿論国立や自治体病院にもこれらを系統立てて教育してくれるところは見当たりません。これでは訪問診療の回数や在宅医療費が伸びないのも当然のことと思われます。
 私はこのブログで書いて参りましたように、療養病棟の患者さんに光が当たるように何とか慢性期医療のスキルを上げたい、そして何とか在宅復帰、社会復帰をさせてあげられる患者さんを増やしたいと思い悩んで参りました。そんな折、ある研究会で、北関東で18年前から在宅医療を積極的に展開しておられる先生にお目にかかることが出来ました。まさに、在宅医療のパイオニア的な存在の先生です。

動画をUPしました。是非一度ご覧ください。

http://www.tominaga-message.com/seminar.html

在宅医養成の試み(その3)

現在わが国の高齢化率は20数%ですが、それに伴う高齢者医療への拠出金が不足し、健保も国も財政的に破綻寸前です。今後わが国は今まで経験したことのない40%という未曽有の高齢化社会へ向かって突っ走ります。そうなると現在約110万人の年間死亡者数は、ピークといわれる2040年頃には166万人が亡くなると推定されています。現在ですら人口当たり欧米の2倍の病床数をもつわが国が、さらに増床して増加する死亡者を病院で引き受けるわけにはいきません。今後、癌を患う高齢者の絶対数が増えていくであろうという予測の中、さまざまな意識調査が行われ、「最期は家族に看取られながら自宅で死にたい」と自宅療養を希望される患者さんが増えています。加齢に伴い生活習慣病や脳血管障害を患い、通院困難になった高齢者も住み慣れた自宅での療養を希望される方が増えてきました。自分の家でできる限り自立した生活をし、その人らしく老い、生を全うして自宅で死んでいく。その現場を支えるために、健康な医療スタッフがお邪魔をする。そのニーズに応えるために2006年に在宅療養支援診療所が制度設計されました。ご承知のように在宅での看取りに1万点など魅力的な報酬が設定されています。届け出数はすぐに1万を超えましたが、現在実働している数は数千にすぎないと推定されています。在宅療養支援診療所が在宅で看取ったのは年間死亡者110万人のうちわずか2万7千人(2.5%)ということです。病院では80%を超える方が亡くなっているのに、わずかにこの数字にとどまっているのはどうしてでしょうか。訪問診療の回数や実際の在宅医療費もわずかしか増加していないのは何故なのでしょうか。

動画をUPしました。是非一度ご覧ください。 

http://www.tominaga-message.com/seminar.html